2013年2月号掲載
代表的日本人
著者紹介
概要
『代表的日本人』は内村鑑三の著作で、新渡戸稲造『武士道』、岡倉天心『茶の本』と同じく、明治期に、日本の文化や精神を英語で西洋に紹介した書である。西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳など、日本に影響を及ぼした5人の指導者、改革者の生涯を描く中で、日本人が持つ素晴らしい特質を浮き彫りにした名著だ。その内容を、現代日本語訳でわかりやすく伝える。
要約
西郷隆盛
日本人が持つ素晴らしい特性。それを、世界に伝える一助となることが本書の目的である ―― 。
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西郷隆盛は、文政10(1827)年、鹿児島城下に生まれた。少年時代はごく普通の子どもで、おっとりして物静かだった。そんな西郷が初めてその本分を自覚したのは、ある遠縁の人の切腹を目の当たりにしたのがきっかけと言われている。
その人が腹に刀を突き刺す直前に、命というものは主君と国のために捧げるもの、と少年西郷に話しかけたのだ。西郷は涙を流し、その強烈な印象を生涯忘れることはなかった。
西郷は、若い頃に王陽明の書物を学んだ。陽明学の教えは、数ある中国の思想の中でも、道徳心や威厳のある天の道を説いている点で、キリスト教に一番近いものだった。西郷が後に著す文章には、この陽明学の影響が色濃く反映されている。
また、仏教の中でも禁欲的な禅宗も少しかじっている。見識が広くて進歩的な日本人だった西郷の教養は、全て東洋のものだったのである。
暮らしぶりと人生観
西郷ほど無欲な人はいない。月収が数百円あった時でも、生活に必要なものは15円あれば足りるとし、残りは全て困っている友人へ渡していた。
西郷の暮らしぶりはつつましく質素だったが、考えていたことは聖人や哲人と変わらなかった。
「敬天愛人」という言葉に、西郷の人生観の全てが集約されている。
西郷にとって「天」の概念がどういうものだったのか、確かめる手段はない。
それでも、天が全能、不変、慈悲深きものであること、そして、その道は誰もが守らなければならないことに疑いの余地はなく、最善のものと理解していたことは、その言動から十分わかる。