2013年3月号掲載
大中華圏 ネットワーク型世界観から中国の本質に迫る
著者紹介
概要
中国と香港、台湾、シンガポール等の華僑・華人圏からなるのが、「大中華圏」である。著者によれば、近年、このネットワークは経済的な関係を深めている他、尖閣問題で見られた通り、政治的な意味も持ち始めたという。こうした大中華圏の現状を、本書は解説する。中国=中華人民共和国と見がちな我々に、中国の本質に迫る上で新たな視座を与えてくれる1冊だ。
要約
大中華圏の実体化
日本人にとって、中国をどう認識するかということは常に重要なテーマである。
しかし、ここでいう中国を「中華人民共和国」とだけ考え、この国のGDP(国内総生産)が日本を追い越して世界第2位になった、最近、軍事費が増えて巨大化しているらしい、といった視点だけで捉えていると、本質を逃してしまう。
こんな疑問を覚えたことはないだろうか。かつて社会主義圏といわれた国々の中で、なぜ中国だけがコンスタントな成長軌道を歩んできたのか。
その答えを考えていくと、そこに「大中華圏」、英語でいうグレーター・チャイナという考え方が見えてくる。中国は華僑・華人圏の香港、台湾、シンガポールの資本と技術を取り込みながら、それをエネルギー源にして成長しているのだ。
私が、この大中華圏という問題設定をしたのは約10年前のこと。当時、私は大中華圏という概念をあくまでも仮想現実だと考えていた。
だが、仮想現実だったはずの大中華圏が、この10年間で急速にリアリティを帯びてきた。
この10年の間には、2008年に北京オリンピックがあり、2010年には上海万博があった。
中国の指導者たちのスピーチの中にも、「中華民族」という言葉が頻繁に使われ始め、例えば、胡錦濤国家主席は北京オリンピックを「中華民族の歴史的成果である」と評価した。中国の新体制のリーダー、習近平国家主席も、就任演説で「中華民族の偉大な復興」という表現を使っていた。
さらに12年の尖閣問題を巡る反日暴動の経緯や、その問題を世界にアピールし問題化しようとする中国の姿勢を見つめていると、大中華圏はもはや単なる経済の連携体でなく、明らかに「政治的な意味」さえ持ち始めていることに気づく。
大中華圏という視界を持つことは、世界認識を深める契機になると思われる。
大中華圏の経済規模はすでに日本の3倍
21世紀に入ってからの10年間で、大中華圏という仮説は加速度的に実体となってきた。