2015年3月号掲載
トマ・ピケティの新・資本論
Original Title :Thomas PIKETTY:“PEUT-ON SAUVER L'EUROPE? Chroniques 2004-2012, Chroniques 2012-2014”
著者紹介
概要
トマ・ピケティ。世界的ベストセラー、『21世紀の資本』で注目される気鋭の経済学者が、フランスの日刊紙リベラシオンに2004~14年、毎月連載していた時評のうち83本を収録。GDP崇拝、経済成長への異議申し立て、日本の政府債務問題など、様々なテーマを縦横無尽に論じる。『21世紀の資本』のエッセンスも記されるなど、格好の“ピケティ入門書”だ。
要約
トマ・ピケティの時評
本書は、フランスの日刊全国紙リベラシオンに2004年9月から2014年6月まで毎月連載した時評をまとめたものである。
この時期を特徴づけるのは、2007年に始まったグローバル金融危機だ。2007年夏に米国の住宅バブルの崩壊とサブプライムローンの不良債権化から始まった金融危機は、翌年9月にリーマン・ブラザーズの破綻を引き起こした。
振り返ってみると、金融の規制緩和が始まったのは1980年代初めのことだ。この頃には、1930年代の大恐慌とその大混乱の記憶は薄れていた。
規制緩和の動きは、1979年頃から米国とイギリスで起きた。英米両国は、次第に日本、ドイツ、フランスに追いつかれることに苛立っていた。
こうした国民の不満を見抜いたレーガンとサッチャーは、アングロサクソンの起業家精神をだめにする国家の介入や規制を廃止し、第1次世界大戦前の純粋な資本主義に回帰しようと訴えた。
この流れは、1990年頃からヨーロッパにも拡がった。そしてヨーロッパと米国の株と不動産による富は大きく拡大した。
だが、1980~90年代に実施された規制緩和の結果として、金融システムと資本主義は脆く、変動しやすく、ますます予測不能になった ―― 。
GDP崇拝をやめよ
2009年、経済協力開発機構(OECD)がサルコジ仏大統領の提唱で設けた「経済パフォーマンスと社会進歩の測定に関する委員会」が報告書を提出した。
この報告書には新しいアイデアはないが、具体的な提案がなされ、検討する価値は十分にある。
それは、国内総生産(GDP)を経済指標として使うのはやめて、国民純生産(NNP)を重視すべきだ、という提案だ。
NNPは一般に「国民所得」と呼ばれるものとほぼ同じで、フランスでは1950年まで広く使われていた。だが今日、国民所得は重視されていない。