2015年11月号掲載
トップエコノミストの経済サキ読み術
著者紹介
概要
経済や市場の動きを、正確に予測するのは難しい。だが、予兆は必ずどこかに現れてくる。その小さな変化を見逃さず、確かな情報を捉え、いかに分析し将来に備えるか。『日経公社債情報』エコノミストランキング1位の実績を持つ上野泰也氏が、先を読み解く技術を明かす。日々のマーケットでの真剣勝負の中で培われた視点はユニークで、教えられることは多い。
要約
「上野泰也流」経済ウォッチング
「経済」は、全体像を正確に把握するのが難しい。様々な経済指標などを手がかりに、その実情を可能な限り的確に推測するしかない。
そして、実情の把握とともに、あるいはそれ以上に重要なのは、経済や金融市場が今後どう動いていくかをできるだけ正しく予測することだ。
筆者は、次の「5か条の原理原則」を常に心にとめ、経済や金融市場の動きをウォッチしている。
- ①経済・金融市場に関する情報は、時間的な空白を決して作らず、入念に集める。
- ②経済統計の解釈は、紋切り型の報道をうのみにしない。数字をもとに自分で考える。
- ③「日常の生活感覚」と整合しない議論は間違っていることが多いので、疑ってかかる。
- ④自分の見方が正しいという自信がある場合、「世の中の空気」に安易に流されない。
- ⑤日本経済に「人口減・少子高齢化」が大きく影響することを「軸足」にして考える。
この5か条の原理原則をベースにしたウォッチング術、それは、次のようなものである。
「ヒット商品番付」から浮かぶ「隠れテーマ」
日経MJ(流通新聞)は毎年12月、その年の「ヒット商品番付」を発表している。実は、この番付からは、日本経済の根底にある重要なテーマがしばしば浮かび上がってくる。
例えば、2014年の番付の「隠れテーマ」は「日本の人口減・少子高齢化」である。
最高位である東の横綱になったのは、「インバウンド消費」である。訪日外客数は2014年に1341万人に達し、過去最高を更新した。
観光庁の調査によると、2014年の訪日外国人1人当たり旅行支出は15万1174円。同じ期間の訪日外客数(1341万人)を掛け合わせて旅行消費額を推計すると2兆278億円になる。
2014年の日本人1人当たりの年間消費支出は、125万2188円。従って、訪日外国人を8人ほど集めれば、日本人1人当たりの年間の消費支出に相当する金額を、彼らが国内で使ってくれる計算になる。外国人観光客を大幅に増やし続けることに成功すれば、日本の人口減・少子高齢化を受けた国内消費市場の規模縮小の流れに、とりあえず歯止めをかけることが可能なのである。
そして、東の幕尻(前頭の一番下である14枚目)に入ったのが「地方消滅」である。
増田寛也氏(元総務相・元岩手県知事)の「消滅可能性都市」についての雑誌論文が話題になったが、人口減・少子高齢化が進む中、東京への人口流出が続くと、多数の地方自治体が立ち行かなくなるのだ。