2016年7月号掲載
軍事大国ロシア 新たな世界戦略と行動原理
著者紹介
概要
復活した“軍事大国”ロシアを、気鋭の軍事評論家が多角的に検証した。軍事というと、ともすると兵力や兵器などに目が行きがちだが、国の成立や社会制度、文化や国民の意識に至るまで、深く洞察している。21世紀世界におけるロシアの立ち位置、世界との関わり、そして軍事戦略を理解するための視座を与えてくれる1冊だ。
要約
「軍事国家」ロシア
2015年12月、ロシアは安全保障政策の指針である「国家安全保障戦略」を6年ぶりに改訂した。注目されるのは、これが「世界的大国」としてのロシアの復活を宣言している点だ。
今やロシアは世界情勢に大きな影響を及ぼすプレイヤーとして復活したのであり、西側と対立してでも独自の国益を守るという姿勢が、この新たな国家安全保障戦略からは読み取れる。
では、こうした認識の上に立つロシアの安全保障政策、さらには軍事戦略はどのようなものか。
まず、ロシアという国家の基本的な性質について、「軍事国家」をキーワードに考察しよう。
ロシアはなぜ「軍事大国」なのか
ロシアは「軍事大国」であるとよくいわれる。確かにロシア軍は定数100万人もの兵力を擁し、世界第2位の戦略核戦力を保有してもいる。
だが、ロシア軍がかつてのソ連軍のように、米軍に匹敵する軍事力を持っているかといえば話はまた別だ。その練度や、現代戦に欠かせないハイテク精密誘導兵器などの面で、ロシア軍は大きく後れをとっている。
それでもロシアは依然として軍事大国である。それは強力な軍事力のみならず、国家や社会全体が軍事と密接な関連を持っているためだ。言い換えれば、ロシアが軍事大国であるのは、「軍事国家」であることによるところが大きい。
では、ロシアのどんなところが軍事国家といえるのか。同国の社会と軍事組織を考察した研究者によれば、ロシアの「軍事的部分」は政治的な制度と、社会的な文化によって構成されるという。
様々な軍事的制度
軍事に関する制度の代表格は、国民の「軍事的義務」である。ロシア国民は憲法によって軍事的義務を負うと規定されており、軍事教育を受ける義務、徴兵に応じる義務、徴兵として軍事勤務に就く義務などを果たさねばならない。
また、ロシア政府は今後、一般青少年向け軍事教育に力を入れていく方針である。
最も初歩の軍事教育制度としては「カデット」がある。これはもともと帝政ロシア時代に設けられた軍の幼年学校を指し、ソ連時代にもスヴォーロフ記念兵学校などの名前で全土に存在した。こうした兵学校では小学生から高校生までの青少年が一般的な初等・中等教育を受け、卒業後はその多くがより専門的な軍人としての教育を受けるために軍の教育施設へと進学していった。