2016年10月号掲載
シリコンバレーで起きている本当のこと
著者紹介
概要
最先端のテクノロジー、若き起業家、巨万の富を生む地域…。アップルをはじめ、多くの有名IT企業が拠点を置く「シリコンバレー」には、こうしたイメージを抱きがち。だが、それは1つの断面でしかないという。華やかな面だけではない、影をも含めたシリコンバレーの全容を、2年余り当地を取材した記者がリポートする。
要約
富を生み出す町の知られざる顔
サンフランシスコ湾の南に延びる細長い地域、シリコンバレー。アップル、グーグル、フェイスブックなどの巨大IT企業が集積する地域だ。
ここから生まれる製品やサービスが世界を席巻している。一方で、IT関係の富裕層と低所得者層の間には、大きな所得格差が生まれている。
ホームレスの24時間バス「ルート22」
それを象徴する存在がある。「ホテル22」。地元の人がそう呼ぶ24時間運行の路線バスだ。シリコンバレーの企業城下町を約1時間半かけて走る。料金は一律2ドル(220円:以下1ドル=110円で計算)。本当の名前は「ルート22」だが、ホームレスの人たちが乗って夜を明かすため、「ホテル22」と呼ばれるようになった。
ここ数年、バスで寝る人が急激に増えている。IT企業で働く富裕層が急増して住宅不足になり、家賃が急騰していることが背景にある。
この地域の2013年の家賃平均は約23万4千円と全米平均のほぼ2倍だ。シリコンバレーは、今や富裕層しか住めない場所になりつつある。
平均世帯年収は約1280万円。これは全米平均の約2倍にあたる。だが、全世帯の約3割は公的扶助なしに生活できない。IT企業の躍進の一方で、埋めがたいほどの社会の溝が広がっている。
財政難の自治体、ボロボロのままの道路
シリコンバレーを車で走るとすぐに気づくのはガタガタの道路だ。路面はつぎはぎだらけ。高速道路の標識が半分落ちかけたり、道路のコンクリートがはげ落ちたりしている場所もある。
シリコンバレーの地元自治体は、世界1、2位の時価総額の企業を地元に抱えながら、慢性的な財源不足に悩んでいる。そんな状態になるのは、IT企業の「税金逃れ」だと指摘する声は多い。
アップルが海外に保有する現金や現金に相当する資産は、約20兆5600億円に上る。マイクロソフトは約10兆3800億円、グーグル(親会社アルファベット)も約4兆7200億円。いずれも米国内での課税逃れだと批判されてきた。
租税の公平性を調査している米NGOによると、アップルが海外での収益に対して支払っている税率は2.3%。米国の法人税率35%を大きく下回る額で、アップルはこれによって約6兆4900億円の税を逃れていると指摘している。
「寄付」と「納税」を同等に考えていいのか
では、シリコンバレー企業は地元に対して何もしていないかというと、そんなことはない。学校やホームレス対策などに寄付をしている例も多い。