2017年1月号掲載
預金封鎖に備えよ マイナス金利の先にある危機
著者紹介
概要
日本では終戦直後、政府の巨額債務を減らすため、「預金封鎖」をはじめ、国民の資産を強引に奪う政策が行われた。金融政策が行き詰まり、消費税増税が延期され、財政破綻が現実味を帯びる今、再び、自分の預金が下ろせないという事態に陥りかねない!? 元財務官僚の経済学者が、日本の財政問題の最悪のシナリオを予測する。
要約
消費税増税なくして財政再建なし
2017年4月に予定されていた消費税増税が、再び延期された。
残念ながら日本の財政はいよいよ崖っぷちに立たされたというのが、正直な感想である。
増税延期で現実味を帯びてきた「財政破綻」
「アベノミクス」の「3本の矢」の1本目として、日本銀行が大胆な「異次元緩和」(量的・質的金融緩和)に踏み切ったのは、2013年4月のこと。以来、為替は円安に振れ、株価は上向き、日本経済は復活を遂げたような錯覚に陥った。
ところが現在、日本経済の状況や将来を楽観している人はあまりいないだろう。異次元緩和の際に黒田東彦日銀総裁が約束した「2年でインフレーション率2%」には遠く及ばず、為替は円高圧力が再び顕在化し、株価も伸び悩んでいる。力強い経済成長を望める状況ではない。
だから増税時期を先送りした、という理屈は一見すると説得的だ。だが、今や日本にとって最大の懸念事項は、経済より財政である。「日本は世界一の借金大国」「国と地方の債務残高はGDP(国内総生産)の200%を超えた」等々の文言はよく目にするが、改善の見通しは立っていない。
むしろ異次元緩和とマイナス金利政策により、財政規律の緩みを含め、悪化に拍車がかかっている。さらに消費税増税まで延期され、財政再建のめどはまったく立たなくなった。このままでは、財政破綻の確率がいっそう高まるだけではなく、その時期も前倒しになりそうである。
「異次元緩和」の限界は数年後に訪れる
異次元緩和により、今の日銀は市場(民間金融機関など)から国債を年間約80兆円ずつ買っている。しかし、多くの識者が指摘する通り、この政策には限界がある。
大雑把に言えば、2015年度末時点で発行されている国債の総額は約1000兆円。異次元緩和は2013年から始まったので、このペースが続くと、あと約12年ですべて買い尽くしてしまう。
ただし、財政赤字を埋めるため、政府は毎年約30兆円程度の国債を新規に発行し、民間金融機関などがそれを買っている。この分を足し引きすると、民間金融機関などが保有する国債は毎年50兆円ずつ減少していくことになる。
また、現在(2016年7月時点)、日銀はすでに約400兆円の国債を保有している。従って、日銀以外の民間金融機関などが保有する国債は約600兆円。そうすると、やはりあと約12年で、日銀が国債をすべて吸収する計算になる。
もっとも、民間金融機関なども無条件に国債を売れるわけではない。民間銀行も保険会社も、資金運用の一環として、ある程度の国債を保有する必要がある。