2017年4月号掲載
政府の隠れ資産
Original Title :THE PUBLIC WEALTH OF NATIONS
著者紹介
概要
国民の目から隠されているが、ほとんどの国の政府は莫大な資産を所有している。それは「パブリック・ウェルス」(国有企業、インフラなど政府所有の公共資産)。うまく運用すれば債務削減と経済成長を同時に実現できるが、お粗末な運用だと経済や政治に悪影響を及ぼす。この“隠れ資産”の実態と、望ましいあり方を示す。
要約
パブリック・ウェルスの可能性
ほぼすべての国において、唯一にして最大の富の所有者は、民間企業でも、ビル・ゲイツなどの個人でもない。私たち全員 ―― 納税者から成る集団である。そして、運用を任された「政府」だ。
ほとんどの政府は思っている以上にたくさんの富を所有しており、債務危機の渦中にある多くの国も例外ではない。
そうした国の大半が、何千もの企業や土地の権利などの資産を所有していながら、公益のために活用しないばかりか、あえて評価しようともしない。公共部門が所有する富、「パブリック・ウェルス」は氷山と同じで、表面に見えているのはほんの一部でしかない。
例えば、アメリカ連邦政府は国土全体の25%以上を所有しており、建造物の帳簿価格は1兆5000億ドルに上る。そして、国際通貨基金(IMF)の推定によれば、州や自治体政府の資産は連邦政府の4倍(6兆ドル)に及ぶという。
世界のパブリック・ウェルスは、世界のGDPを上回る
個々の国のパブリック・ウェルスの集計に関しては、今のところIMFが最も成果を挙げている。しかしそれでも、その対象は27カ国にすぎない。
各国は大体において金融資産と、非金融資産について報告している。この非金融資産には固定資産(建物、機械、設備)、在庫、知的財産、美術品や貴金属や宝石などの貴重品が含まれる。
その集計結果には驚かされる。ほぼすべての国において、金融資産と非金融資産の合計は公的債務の総額より大きく、それはフランス、ドイツ、日本などの超債務国も例外ではない。アメリカの場合は、資産と債務がほぼ拮抗している。
IMFが評価を行った27カ国では、公共資産の規模が平均するとGDP(国内総生産)の114%に及ぶ。そして著者らが追加した各国の調査結果も、この評価の正しさを裏付けている。
これらの結果から世界全体の傾向を推測すれば、世界の公共資産は公的債務の総額(54兆ドル)だけでなく、世界のGDPの総額(75兆ドル)も上回ることになる。
地方自治体に眠る莫大な「隠れ資産」
中央政府の場合、公式なデータベースに記録されている数字は総じて過小評価されている。会計基準に問題を抱えているだけでなく、公共資産を一括したリストが準備されていないからだ。
一方、自治体の資産や天然資源はデータに含まれず、仮に含まれていたとしても一部にすぎない。しかし、僅かな情報からでも、中央以外の政府は平均して、非金融資産全体の半分以上を所有していることがわかる。その証拠に、地方自治体の資産をデータに含めている国の方が、公共資産のシェアが高くなる傾向が強い。