2017年6月号掲載
超一極集中社会アメリカの暴走
著者紹介
概要
シリコンバレーとウォール街。アメリカの技術革新と金融のメッカに、今、富と権力が集中し、産業構造が激変しつつある。一方、その変化に取り残されて、失業し、困窮する人は多い。まさに「超一極集中」というしかない、米国社会の凄まじい現状、深刻な格差拡大がもたらされた原因を、在米36年のアナリストが伝える。
要約
アメリカの製造業の今
アメリカでは過去十数年間に、幾つもの世界的な大企業が誕生している。アマゾン、グーグル、テスラ・モーターズ、フェイスブック、エアビーアンドビー、ウーバー…。
また、DNAを操作しての治療、3Dプリンターによる製造、人工知能(AI)を持つロボットなど、新しい事業分野も数多く誕生し、実用化が進む。
その過程でアメリカの企業収益は増え、株価も上がった。だが他方で、工場閉鎖で失業し、困窮する人も増えている。そうした人々の怒りや絶望感は募る一方で、銃の乱射事件も日常茶飯事だ。
そういった分裂症候群を推進する最大のエンジンがシリコンバレーとウォール街だろう。技術革新のメッカと金融のメッカだ。技術も金融も変化が速く、波及効果が大きく、それゆえに巨額の資金が集中し、社会の変化を加速している。
自動車メーカーはシリコンバレーを目指す
今、シリコンバレーは沸いている。半導体を使った太陽電池から始まった新エネルギーの開発も、IoT(Internet of Things)も、次の技術革新の中核になるであろうAIやロボットも、全てシリコンバレーに集中している。
アメリカの自動車産業のメッカといえば、かつてはデトロイトだった。だが最初の電気自動車テスラはシリコンバレーで誕生。そして電気自動車や自動運転の時代へ向け、デトロイトにあった各社の技術開発センターもこの地に引っ越してきた。
よって、次世代の自動車産業技術のメッカは、シリコンバレーになる可能性がある。
ファストフード店で接客するロボット
センサーとAIの急速な進歩によって、ロボットも急速に多様化・進歩している。
視覚・聴覚・圧力・重力などのセンサーによってロボットの自主性は増し、動作は精密になった。そしてAIによってどんどん賢くなっている。
Chatbot(チャットボット)のように、普通の言葉で会話できるロボットも実用化されている。小売店の棚をチェックして回るロボットは、棚の在庫を把握し、商品の補充を店員に促す。棚に商品を配置する作業まで、ロボットで自動化したスーパーもある。サンフランシスコでは、ロボットがハンバーガーを作るファストフード・レストランが開店準備に入っている。アディダス社は、ロボットが製造したスニーカーを公開した。
製造業の国内回帰の先に
こうした技術の導入が本格化したら、製造現場での人間の労働はさらに減り、人件費は大幅に削減される。そうなれば人件費の安い地域で製造する必要は無くなり、むしろ高度な技術者が豊富で、市場に近い地域で製造する方が有利になる。