2017年9月号掲載
「西洋」の終わり 世界の繁栄を取り戻すために
Original Title :The Fate of the West
著者紹介
概要
戦後、日米欧の西側諸国は、開かれた社会、権利の平等などを背景に繁栄を謳歌してきた。だがグローバル化に伴う不平等を背景に、世界中で移民排斥、孤立主義を訴える政党が支持を集めるなど、繁栄をもたらした「西洋の理念」が危機に瀕している。その復活のために、何をすべきなのか。元・英エコノミスト誌編集長が提言する。
要約
西洋という理念
これまで、現代的であることと西洋的であることは、同じだとされてきた。そして、西洋的であれば、科学、文化、豊かさといったほとんどの事柄で最先端だとされてきた。
しかし今、なぜそうなったのかという理由を、私たちは見失っている。また“西洋人(ウェスタナーズ)”が誰を指すのかも、わからなくなっている。わかっているのは、今は欧米諸国だけに、それが存在するわけではないということだ。
現在の日本、台湾、スロベニア、韓国は、スウェーデン、フランス、カナダと同様に現代的で西洋的だ。なぜなら、これらの国は、地理や歴史ではなく、1つの理念(イデア)を共有しているからだ。
その理念は強力で、何よりも重要だ。それが重要なのは、前の時代には考えられなかったようなレベルの繁栄、幸福、安全、安定、平和、科学の進歩をもたらしたからにほかならない。
「リベラル」という言葉に潜む2つの理想
西洋という理念は、しばしば“自由主義(リベラリズム)”や“自由民主主義(リベラル・デモクラシー)”と呼ばれる。そして、これらには、別の重要な言葉が2つ潜んでいる。理想あるいは指針と呼んでもいいかもしれない。
1つは“開放性(オープンネス)”だ。リベラリズムの“リベル”(ラテン語)、つまり自由は、個人にとって望ましい結果であり、自由な個人が集まって暮らしている社会の状態を表している。
そういう社会は、物やサービスの商取引も、文化や科学も、新しい発想、新しい機会に対して開かれている。つまり、その社会は、中央に指揮されているのではなく、参加している人々の希望と行動の集合で成り立っている。それが、第2の理想あるいは指針である“平等”をもたらす。
開放性は、その徳風がうまく働き、社会全体で受け入れられるために、平等という概念をたえず推し進めることを求めてきた。そうしないと、自由な個人の間に必ず紛争が起きる。争いを和らげるか解決する手段がないと、不利な立場に置かれ、置き去りにされたと感じる人が出てくる。
最近、アメリカと多くの国々で、まさにそういうことが起きている。平等という意識が失われ、ないがしろにされ、あるいは蝕まれている。
紛争を解決し、社会を落ち着かせる、この平等は、所得や資産だけに限られたものではない。言論や権利や待遇の平等、参加の平等も含んでいる。
西洋の理念の危機
この西洋の理念は、これまで成功を収めてきた。だが、今その理念が深刻な窮地に陥っている。