2017年9月号掲載
忘れる力
著者紹介
概要
過去の苦い思い出や、許せない出来事。人は、消化しきれない多くの悩み、苦しみを抱えて生きている。これらを手放し、波立った心を静めるにはどうすればいいのか。必要なのは、「忘れる力」だ。ものの見方を少し変え、ちょっとした日常の工夫で、上手に忘れる。そのためのヒントを、奥深い禅の教えを通じて平易に説く。
要約
いいことも悪いことも、きれいさっぱり
何年も前のつらい思い出や、友人に言った後悔する一言、逆に人に言われたことで胸に刺さったままの言葉 ―― 。
私たちは自分が思う以上に、消化できない多くのことを抱え込んで生きている。そんなネガティブな思いは、きれいさっぱり捨てて忘れてしまえばラクに生きられるのに、なかなか捨てられない、忘れられない。それが、人間というものである。
「捨てる」ことの難しさ
「放下著」という禅語がある。心に何も持たず、「無」であることが悟りに近づく道。だから、「抱えているものは捨ててしまえ、放り投げてしまえ」と伝えている。
何かにとらわれることを捨て、さらに、捨てようとする心さえも捨て去る。大切な今に集中するために、捨てるのである。
ただ、その「捨てる」という行為が存外に難しい。ついつい、「私はこんな性格だから、簡単には変わらない」「あんなつらい経験を忘れることなんてできない」などと思ってしまうからだ。
そういう思い込みやこだわりは、全部自分がつくり出している。いわば、心に自分で枷をつけている状態である。
新しい記憶を「上書き」する
では、どうすればその枷を外せるのだろうか。
「どうしても、過去の体験を思い出してしまう」というのであれば、その記憶を上書きするために何か新しいことを始めてみる。そうすればおのずと、今に視点が向くはずだ。
今、働いている職場が嫌で、毎日「もう辞めたい」と思っているなら、思いきって新しい仕事を見つけたらいい。つまりは、新しく集中できる「次」を見つけるということである。
禅の教えで、こういうエピソードがある。
唐代の禅僧・徳山が教えを乞うために竜潭禅師を訪ねた。ずっと話し込んでいたので、気づけば夜になっていた。