2018年3月号掲載
イスラーム主義 もう一つの近代を構想する
- 著者
- 出版社
- 発行日2018年1月19日
- 定価924円
- ページ数250ページ
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著者紹介
概要
イスラームの教えに基づく社会、国家を目指す「イスラーム主義」。19世紀末頃に生まれたこのイデオロギーが、今、中東を広く覆いつつある。実際、イスラームを政治に反映させようという声が中東の政治を変えている。その背景にあるものとは?政治と宗教の関係はどう変わっていくのか? 歴史を繙きながら考察する。
要約
「イスラーム主義」とは何か
「イスラーム主義(Islamism)」とは何か。
これは、文字通り、宗教としての「イスラーム(Islam)」に「主義(ism)」が接続された用語である。すなわち、イデオロギーを指す。
本書では、イスラーム主義を「宗教としてのイスラームへの信仰を思想的基盤とし、公的領域におけるイスラーム的価値の実現を求める政治的なイデオロギー」と定義する。平たく言えば、イスラームに依拠した社会変革や国家建設を目指すイデオロギーということになる。
このイスラーム主義を理解することは、混迷の色を深める中東の将来を見通す上で不可欠である。
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歴史を遡って見ると、イスラーム主義の歴史は浅い。その起源は、中東のオスマン帝国が衰退し崩壊した19世紀末~20世紀初頭に求められる。
一方、イスラームが誕生したのは7世紀のこと。この頃には、預言者ムハンマドが率いる単一の共同体(ウンマ)が実現されていた。
その後、カリフ(預言者の後継者)がムスリムたちを束ねた正統カリフ時代(632~661年)を経て、共同体は分裂し、様々な王朝が併存した。ウマイヤ朝、アッバース朝、ファーティマ朝…。オスマン帝国(1299~1922年)は、このイスラームの王朝史の重要な一部を構成する国家であった。
しかし19世紀以降、イスラーム国家としてのオスマン帝国の統治原理は大きく揺らぐ。西洋列強の植民地主義による分割・支配が拡大したのだ。広大な帝国領のうち、イギリスがイエメンやエジプトなどを、フランスがアルジェリアやチュニジアなどを植民地とした。その後、第1次世界大戦の敗戦国となったオスマン帝国は解体され、領土の大半が植民地分割・支配された。
植民地支配下の中東諸国では、社会と国家の世俗化が進められた。しかしそれは、中東に平和と繁栄を約束するものではなかった。それどころか、クーデタ、独裁政治、内戦などが頻発した。
こうした中で誕生したのが、イスラーム主義である。それは、世俗主義の拡大に対する反動として、西洋的近代化とは異なる「もう1つの近代」を求めるイデオロギーとして、発展していった。