2018年12月号掲載
アリエリー教授の「行動経済学」入門 -お金篇-
Original Title :DOLLARS AND SENSE:How We Misthink Money and How to Spend Smarter
著者紹介
概要
セール品に目がない、普段はケチなのにカジノでムダ遣いをする、無料の景品に釣られて高いものを買う…。人はなぜ、お金に関して愚かな振る舞いをするのか? 不合理な判断を下しがちな人間心理を、行動経済学者らが多くの失敗エピソードを交え解き明かす。お金を賢く使うための考え方と、行動経済学の基礎が学べる1冊だ。
要約
お金とは何だろう?
お金は、アメリカ人の離婚原因の第1位、ストレスの原因の第1位である。
お金の悩みがあると、あらゆる問題解決能力が落ちる。そして、愚かな決定を下してしまう。
そこで、お金についてどんな間違いを犯しやすいか、なぜそういう間違いをするのかを考えたい。
それに賭けてはいけない
ジョージ・ジョーンズは、憂さ晴らしを求めていた。仕事はストレスだらけで、おまけに懐は寂しい。そんなわけで、出張でラスベガスに来た彼は、カジノへ向かった。
彼はATMから200ドルを引き出し、ブラックジャックのテーブルに着いた。200ドルと引き替えにプラスチックのチップの山をもらう。チップは「5ドル」だが、おもちゃみたいでお金とは思えない。ウェイトレスが無料のドリンクをもってきたので、喜んでチップを1枚はずむ。
ジョージは勝負する。少し勝つが、それ以上に負ける。結局、200ドルを全部すってしまった。
実はその日の朝、彼は近くのカフェに向かったが、手前で引き返した。ホテルの部屋でコーヒーを淹れれば、コーヒー代4ドルを節約できると気づいたからだ。その彼が、夜になれば200ドルを賭け、ウェイトレスにチップまであげている。
何が起こっているのか?
ジョージの経験には、私たちが犯しがちな心理的過ちを垣間見ることができる。例えば ――
・心の会計(メンタルアカウンティング)
コーヒー代を節約したことからもわかるように、ジョージの懐は寂しい。なのにカジノでは、200ドルをポンと使う。こうした矛盾が起こるのは、彼がカジノでの出費を、コーヒーとは別の「心の勘定科目」に仕訳しているからだ。すなわち、カジノの賭け金は「娯楽」、コーヒーは「生活費」の勘定である。これによって、2種類の出費に対する感じ方は変わるが、実はどちらも彼のお金だ。
・無料の代償
ジョージは無料のドリンクに大喜びする。確かに代金は直接払っていないが、「無料」のものに釣られて、判断力を鈍らされている。無料のものは、実は高くつくのだ。
・出費の痛み
彼はチップで賭けをする時、お金を使っているような気がしない。ゲームのような感覚だ。チップだと、紙幣を手渡す時のような現実感がない。