2019年2月号掲載
FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実
Original Title :FEAR:Trump in the White House
著者紹介
概要
かつて「ウォーターゲート事件」をスクープし、ニクソン大統領を退陣に追い込んだボブ・ウッドワード。伝説の記者が、今度はトランプ大統領に斬り込んだ。内部事情をよく知る重要人物らへの極秘インタビューを基に、ホワイトハウスの意思決定の実態を暴露。“恐怖の男”ドナルド・トランプの人となりを浮き彫りにする。
要約
衝動に満ちたトランプの意思決定
今、アメリカは、感情的になりやすく、気まぐれで予想のつかない指導者、トランプ大統領の言動に振り回されている。
そしてホワイトハウスのスタッフたちは、大統領の危険な衝動から生まれる事柄を故意に妨害している。以下は、その物語である ―― 。
トランプの反NATO思想の根拠は“金”
トランプ大統領は、海外の同盟国の重要性や外交の価値を理解していない。例えば、ヨーロッパ諸国との68年に及ぶ同盟である北大西洋条約機構(NATO)について、トランプは選挙運動中に、「NATOは時代遅れだ」と主張していた。
批判の根拠は金だ。NATO加盟国はGDP(国内総生産)の2%を防衛費として支出することを目標としていたが、アメリカはGDPの3.5%で、ドイツはわずか1.2%だった。
マティス国防長官は、2017年2月にドイツで演説を行う予定だった。それまでにトランプ政権の「NATO政策」を決めなければならない。
一市民としてのマティスの意見では、トランプの反NATO思想は正気の沙汰ではなかった。NATOは冷戦中にソ連に対抗して大きな成功を収めた仕組みであり、欧米諸国の結束の基礎だと多くの人は考えている。
そこで大統領居室で晩餐会を開くよう、プリーバス大統領首席補佐官が手配した。マティスやダンフォード統合参謀本部議長らの意見を、トランプに聞いてもらうためだ。
その晩餐会で、軍の制服組のトップであるダンフォードは、「NATOは解消していいような同盟関係ではありませんし、解消したら元に戻すのは難しいでしょう。ヨーロッパの政治的、戦略的、経済的結束を保つのは極めて重要です」と、トランプに言った。そして、加盟国が防衛費を年間GDPの2%にするという必達目標を守るべきだという意見には賛成した。
「ドイツは2%というコミットメントを果たすと思いますし、ドイツは最も重要な加盟国です」と、マティスが言い添えた。
プリーバスが、2%は義務ではなく、2024年までの努力目標として合意された数字だと注意した。これに対しトランプは、「目標だろうがなんだろうが、どうでもいい。それが彼らのやるべきことだ。彼らは金が払えないのか?」と聞いた。
「違います。しかし、アメリカは経済成長に勢いがないヨーロッパを支援すべきです」と、共和党の重鎮グレーは言った。「NATOをなくすのなら、それに代わるものをひねり出さないといけませんよ」と、マティスが補足した。