2022年8月号掲載
プーチンの世界 「皇帝」になった工作員
Original Title :Mr. Putin:Operative in the Kremlin (2015年刊)
著者紹介
概要
ウラジーミル・プーチン。ロシアのトップとして君臨し続ける彼はどんな人物なのか? そしてその支配下にある国家・ロシアの行動原理とは? 米国のトップアナリストが、プーチンの行動や築いたシステムを徹底分析。彼の人間性や世界観、およびロシアがいかなる国家か、膨大な資料、綿密な取材を基に解き明かす。
要約
プーチンとは何者なのか?
ウラジーミル・プーチン。
彼は、1952年10月、旧ソ連のレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)で生まれた。
プーチンの経歴
少年時代はサンボ(ソ連発祥の格闘技)と柔道の訓練を積んだ。高校卒業後はレニングラード大学で法律を専攻し、1975年に卒業すると、情報機関KGBで工作員として勤務。その後、大学時代の教授、アナトリー・サプチャークがレニングラード市ソビエト議長になると、プーチンは彼の顧問に。91年、サプチャークがサンクトペテルブルク市長になると、プーチンは副市長に就任した。
96年、サプチャーク市長が再選に失敗すると、プーチンはモスクワで働き始める。そこで数々の役職を担った後、98年にKGBの後身であるロシア連邦保安庁(FSB)の長官に就任。
翌99年には、ボリス・エリツィン大統領によって首相に任命された。そして同年、エリツィンが辞職するとプーチンが大統領代行に就任し、2000年には選挙を経て大統領となった。
こうした基本的な事実は、すでに明らかになっているが、これだけの有名人にしては公の個人情報は少なく、その多くは闇に包まれたままだ。
大統領を演出する専属PRチーム
プーチンを調べてわかったのは、彼にとって大事なのは、彼の言動を相手がどう捉えるかである、ということだ。彼にとって、周りの人間は自分がコントロールするゲームの参加者にすぎない。彼が情報を発信し、周りが反応を返す。その反応を見れば、相手の人間性、望み、関心がわかる。
これまでプーチンの専属PRチームは、いくつものイメージを押し出してきた。猛獣ハンター、自然保護活動家、スキューバ・ダイバー、バイク乗り、時にはナイトクラブの歌手。彼は様々な格好で人々の前に現われる。そしてPRチームは、その反応を注意深くモニターしている。
パフォーマンスの目的
プーチンのパフォーマンスには、必ず具体的な目的がある。すべては世論調査の結果に基づいた行動であり、国民の中の特定の集団に訴えかけ、親密で良好な関係を築こうとしているのだ。
大統領が革ジャケットを着て暴走集団と一緒にバイクを走らせたり、自ら超軽量飛行機を操縦し、絶滅の危機に瀕する渡り鳥を先導したりすることで、ロシアのバイク乗りと自然保護活動家たちがスポットライトを浴びる。すると、「自分たちの活動が大統領を動かした」と彼らは自信を持てる。つまりプーチンのパフォーマンスは、一種の一体感や連帯感を生み出すのである。
彼はロシア各地に足を運び、大衆と対話した。その目的は、社会から無視された人々、問題に注目を集めることだ。たとえ1つ1つは小さくても、国民に敬意を示すための活動を行えば、やがて大きな効果となって現われる。15年以上もの間、プーチンがロシアで最も人気の高い政治家として常に支持を集めてきた理由の1つは、そこにある。