2019年7月号掲載
人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか
Original Title :HOW WE KNOW WHAT ISN'T SO:The Fallibility of Human Reason in Everyday Life
著者紹介
概要
不妊の夫婦が養子をとると妊娠しやすくなる。バスケットボール選手が波に乗るとショットが連続で決まる…。世の中には、根拠がないにもかかわらず、多くの人が陥る“誤信”が多数ある。こうした誤信はいかにして生じ、信じられ続けるのか? 認知心理学者がそのメカニズムを、興味深い様々な事例を引きつつ、明らかにする。
要約
何もないところに何かを見る
欧米では、「子供ができないため養子をもらった夫婦は、妊娠しやすい」と広く信じられている。養子をもらうことで、子供がいないことからくる精神的ストレスが無くなるため、こうした皮肉な現象が起こるのだと考えられている。
しかし、調査によれば、養子縁組が妊娠率を高めるという事実はない。こうした誤った考えや信念は、どのように生み出されるのか。そして、それがなぜ信じられ続けるのか。
偶然による出来事の誤認知
多くのバスケットボールの選手やファンに信じられている、「波に乗る」という現象がある。1つのショットの成功(あるいは失敗)が、次の成功(失敗)につながり、それが持続していく、と考えられている現象だ。
本当に成功が成功を生むのだろうか?
あるチームの1年間の全ショット記録を調べたところ、「直前のショットに成功している場合」「直前の2回のショットに連続して成功している場合」「直前の3回のショットに連続して成功している場合」のどれをとっても、直前の1、2、3回に失敗している場合に比べて、特にショットが決まりやすいということはなかった。
これは、ショットが入り出すと続けて入るという考えが誤りであることを示している。では、なぜ「波に乗る」という現象が信じられているのか。
人は、偶然による出来事がどのようなものであるかについて、間違った解釈をすることがあるからである。
平均的なバスケットボールの選手は、ほぼ50%のショット成功率なので、20本のショットを試みれば、あたかも「波に乗った」かのように、4本連続や5本連続でショットを決めるようなことは偶然でも十分起こり得る。そして選手もファンも、そうした偶然の解釈を誤ってしまうのだ。
偏りの錯誤
例えば、コインを投げると裏と表がほぼ交互に出るはずだという直観を人々は持っている。だが実際には、それほど交互に出るわけではない。
ランダムな事象についてのこうした誤った直観を、「偏りの錯誤」と呼ぶ。ランダムな分布をしていても、私たちには同一タイプのものの偏りや連続が多すぎるように感じられる。そのため、そうした偏りや連続が偶然によって生じたに過ぎないことをなかなか受け入れられないのだ。
すなわち、私たちにとってランダムな事象の配列を正しく認知することが難しく、そこから誤った考えを生み出しかねない。単なる見かけ上のことに過ぎないことを、規則性があったり、秩序があったりすると信じてしまいがちなのだ。