2019年9月号掲載
大分断 格差と停滞を生んだ「現状満足階級」の実像
Original Title :THE COMPLACENT CLASS:The Self-Defeating Quest for the American Dream
著者紹介
概要
アメリカといえば、イノベーションの国。そんなイメージが強いが、最近は様相が違う。リスクを嫌い、現状維持を求め、イノベーションに興味のない人が増えているのだ。経済学者である著者は、彼らを「現状満足階級」と命名。その台頭が、所得や教育、社会階層など、様々な面で“分断”を拡大させている、と警鐘を鳴らす。
要約
現状満足階級の誕生
この10年ほど、大激変の時代だとよく言われる。確かに、世界中がインターネットで結ばれ、多文化主義が強まるなど、世界は大きく変わった。
しかし、そうした変化と並行して起きている現象は、それと同じくらい重要なのに、見落とされがちだ。それは何か?
3つの層から成る「現状満足階級」
今日のアメリカ人は、リスクを嫌い、行動パターンが固まり、自分と似た人ばかりとつき合う傾向が強い。その結果、開拓者精神、すなわち、世界で最も生産性が高く、イノベーション精神に富む経済を築いてきた要素が減退してしまった。
アメリカ人はこれまでになく、変化を先延ばしし、変化を避けるようになった。この傾向はライバル企業との競争、住む場所や職場の変更、新しいものの創造を避けたがるという形で現れている。
このような、新しいもの、異なるものを拒絶する姿勢をよしとする人々を、本書では「現状満足階級」と呼ぶ。それは、3つの層で構成される。
①特権階級
概して教育レベルが高く、社会的な影響力も強い。高所得層に属しており、今の状況が変わらないでほしいと願っている。
②自己防衛階級
所得・教育レベルの面で中流の人たちが多い。この人たちは、不満や不安はあるが、今の上々な暮らしを手放したくないという思いが強い。
③袋小路階級
自分と同じような属性や階層の人ばかりが住む地区で育ち、教育も十分受けていない。過去も現在もひどい暮らしをしていて、おそらくそれは未来も変わらない。そんな境遇に不満をもっている。
現状維持志向の行き着く先
上記の各グループが身を置いている環境はまるで違う。しかし、すべてのグループに共通することがある。それは、社会的にも情緒的にも、イデオロギー的にも、変化がゆっくり進むことを受け入れ、それを前提にしているという点だ。現状に満足しているのである。
底辺の人たちまで現状に満足するなどありえない、と思うかもしれない。しかし、実際の行動を見る限り、そう判断せざるをえない。犯罪に手を染める人は大幅に減っているし、暴動の類いに参加する人も少なくなった。共産主義など、極端なイデオロギーを信奉する人も減った。
現状に満足できるのは悪いことではない。だが一方で、悪い材料もある。社会と経済の活力が減退し、様々な面で変化が起きなくなれば、安定した快適な生活を支える制度の維持費がまかなえなくなる。そして、一握りの才能豊かな中流層が上流層にのし上がる以外は、社会階層の流動性が弱まり、階層の固定が進む。