2019年11月号掲載
ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か
- 著者
- 出版社
- 発行日2016年12月25日
- 定価902円
- ページ数244ページ
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著者紹介
概要
トランプ米大統領の自国第一主義、ジョンソン英首相が進めるEU離脱…。近年、世界ではポピュリズム政党・政治家の台頭が著しい。“人気取り政治”といわれ、民主主義に害を及ぼすと見られがちな「ポピュリズム」。本書は、この政治運動・思想を理論的に位置づけた上で、成立の背景、欧州での広がりを分析、その姿を明らかにする。
要約
ポピュリズムとは何か
近年、先進各国で「ポピュリズム」と呼ばれる政党や政治運動が躍進している。
特に民主主義の先進地域とされるヨーロッパで、ポピュリズム政党の伸長は顕著である。今や、地方議会も含めれば、ドイツ、オーストリア、スイスなど各国でポピュリズム政党は多数の議席を獲得し、各国の政治に強い影響を与えている。
また、2016年のアメリカ大統領選挙では、ドナルド・トランプが既成政治を正面から批判するとともに、メキシコ移民やイスラムを敵視する手法で支持を広げて当選し、世界に衝撃を与えた。
21世紀の世界は、あたかも「ポピュリズムの時代」を迎えたかのようである ―― 。
2つの定義
では、そもそもポピュリズムとは何なのか。ポピュリズムについては、次の2種類の定義がある。
第1の定義は、固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイルをポピュリズムととらえる定義である。日本では、ポピュリズムをこのような「指導者が大衆に直接訴える政治」の意味に用いることが多い。
第2の定義は、「人民」の立場から、既成政治やエリートを批判する政治運動をポピュリズムととらえる定義である。すなわちポピュリズムとは、政治変革を目指す勢力が、既成の権力構造やエリート層を批判し、人民に訴えて、その主張の実現を目指す運動とされる。近年の政治学では、この定義をとる立場が多いように見受けられる。
このように2通りの定義があるが、大まかにいえば、前者はリーダーの政治戦略・政治手法としてのポピュリズムに注目するのに対し、後者は政治運動としてのポピュリズムに重点を置く。そのためこの2つの定義については、どちらが正しい定義というものではない。
「エリートと人民」の対比を軸に
ここでは、後者の定義、すなわち「エリートと人民」の対比を軸とする、政治運動としてのポピュリズムの定義を採りたい。なぜなら、現在、世界各国を揺るがせているポピュリズムの多くは、まさにエリート批判を中心とする、「下」からの運動に支えられたものだからである。
近年の欧州におけるポピュリズム政党の台頭やEU離脱を巡るイギリスの国民投票、2016年のアメリカ大統領選挙で露わになったのは、既存のエリート層、支配階級に対する「下」の強い反発だ。
グローバル化や欧州統合を一方的に進め、移民に「寛容」な政治経済エリートに対し、緊縮財政などの痛みを一方的に負わされた人々の反感が、ポピュリズムを支える有力な基盤となったのだ。