2020年2月号掲載
AFTER SHARP POWER 米中新冷戦の幕開け
著者紹介
概要
「シャープパワー」。これは、情報の歪曲や世論操作などの強引な手段を使い、相手国に自国の方針をのませようとするもの。中国は主に米国で用いてきたが、近年、米国では警戒感が増し、排除の動きが進む。米中新冷戦の要因とされる、この新たなパワーはいかなるものか、詳しく説くとともに、日本が学ぶべき教訓についても記す。
要約
「シャープパワー」とは何か
昨今、国際社会では、従来の政府対政府の外交ではなく、相手国の世論に対して自国のソフトパワーを展開し、政策広報や文化交流、国際放送などで、直接働きかける外交手法が注目されている。
この外交手法を、「パブリック・ディプロマシー(公共外交)」と呼ぶ。これによって、相手国の世論を味方につけ、外交関係においても自国の利益に資するような環境づくりを行うのだ。
中国はかなり以前から、米国に対して活発にパブリック・ディプロマシーを展開してきた。
例えば、CRI(中国国際放送局)は、1990年からワシントンなどの都市で英語ラジオ番組を放送してきた。中国国営新華社通信も2010年より、北京から24時間、英語による国際テレビ放送を開始し、5年足らずで世界100カ国以上をカバーするようになった。
しかし最近、こうした中国の働きかけに疑問符が付きはじめ、中国はソフトパワーではなく、「シャープパワー」を行使しているとして、警戒されるようになってきた。
権威主義国家による世論操作
シャープパワー ―― 。2017年11月に開催されたフォーラムで、米国のシンクタンクNED(全米民主主義基金)がこの言葉を用いて中国の活動に警鐘を鳴らして以来、世界的にシャープパワーを用いる中国の新たなイメージが定着しつつある。
NEDによれば、シャープパワーとは、権威主義国家が、強制や情報の歪曲、世論操作などの強引な手段を用い、主に民主主義国家の政治環境や情報環境を鋭く「刺す」「貫通する」ことで、自国の方針を飲ませようとするものである。
これまで、主に外交・安全保障分野において、軍事力などのハードパワーや、文化や価値観などのソフトパワーが国家間で行使されてきたが、シャープパワーは全く新しい概念として誕生したパワーである。
2014年頃から風向きが変わった
シャープパワーという言葉が頻繁に用いられるようになった背景には、欧米諸国を中心とした国際社会の対中警戒感がある。
前述の通り、中国は主に米国に対し、長年、あらゆる分野で戦略的なパブリック・ディプロマシーを展開してきた。その結果、2010~13年頃には、「アジアの中で最も重要なパートナー」を中国と見る米国世論が、日本を上回ったほどだ。
しかし、2014年頃から風向きが変わりだした。中国が展開する世論工作やロビー活動、米シンクタンクや大学などへの資金提供といった、なりふり構わぬ外交戦略が、米国からプロパガンダやスパイ活動と批判されはじめたのだ。