2020年9月号掲載
事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学
Original Title :THE INFLUENTIAL MIND:What the Brain Reveals About Our Power to Change Others
- 著者
- 出版社
- 発行日2019年8月30日
- 定価2,750円
- ページ数285ページ
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著者紹介
概要
言い争いや議論の時、明らかな事実を示し、論理的に主張する。これは優れた方法のように思えるが、実はそうではない。事実を示すことで、相手の気持ちをさらに頑なにすることも。では、どうすれば、他者をうまく説得し、動かすことができるのか? 認知神経科学者が、科学に基づくとっておきの“説得の技法”を紹介する。
要約
事実で人を説得できるか?
誰かに影響を与えたい時、何をすべきか?
目の前にいる人の行動や信念に影響を与えたいのなら、まず、その人の頭の中で何が起こっているのかを理解し、その人の脳の働きに寄り添う必要がある ―― 。
事実で人の意見は変わらない
テルマとジェレミアを例にとろう。
2人は幸せな結婚生活を送っており、意見が一致しないことはめったにない。だが、ある話題に関しては意見が異なる。それは、将来どこに居を定めるかということだ。テルマはフランス生まれのフランス育ち、一方ジェレミアはアメリカで生まれ育った。2人とも、自分の生まれ故郷が子育てに最適な場所だと信じている。
2人は弁護士で、陪審員を説得し味方につけることを仕事としている。だから共に、自らの意見を裏づける事実を示し、相手を説得しようとした。
ジェレミアがテルマに「生活費はアメリカの方が安い」というデータを見せれば、テルマは「フランスに住む弁護士の方が高収入」という数字を示す。ところが2人とも、相手が示す「証拠」は信憑性がないと一歩も譲らない。
言い争いや議論では、「私が正しくて、あなたが間違っている」ことを示す攻撃材料を突きつけたくなる。それが人間の本能だ。事実で裏づけられた主張は、説得力があるように思えるからだ。
しかし、あなたが口論した時のことを思い出してほしい。そうした事実で、誰かの信念を変えられただろうか? 事実や論理は、人の意見を変える最強のツールではないことはおわかりだろう。
賛成意見しか見えない
実のところ、自分の意見を否定するような情報を提供されると、私たちはまったく新しい反論を思いつき、さらに頑なになることもある。
例えばテルマは、ジェレミアが示した「アメリカの教育システムの方が素晴らしい」と論じる記事を読み、多くの問題点を見つけた。「これはアメリカ人が書いた記事でしょ」「アメリカ人が教えているのは近代文学と新しい歴史だけ。古典文学や旧世界の物語には見向きもしない」…。
さらに彼女は、フランスの教育システムの方が優れていることの新しい理由を考えついた。その結果、当初からの確信はさらに深まった。