2021年1月号掲載
経験なき経済危機 日本はこの試練を成長への転機になしうるか?
著者紹介
概要
新型コロナウイルスの感染拡大により、世界が、いまだ経験したことのない経済危機に陥っている。そんな中、迷走を続けた日本政府の対応。第2波、第3波に備えるためにも、政策の検証が必要だ。補償なき営業自粛要請、一律10万円給付、GoToトラベル…。本書はデータを基に、実行された対策の是非を問い、提言を行う。
要約
日本経済が受けた打撃
我々は、かつて経験したことがない深刻な経済危機に直面している。
2020年6月に公表された世界銀行の報告書は、新型コロナウイルス感染症による世界経済の危機は、第1次世界大戦、第2次世界大戦、大恐慌に次ぐ、歴史上で4番目のものだとした。
新型コロナウイルスは、これまでの社会が抱えていた様々な問題や矛盾を、白日の下にさらけ出した。格差、制度の歪み、政治家の資質等々だ。
他方で、コロナに対処するための様々な改革が、新しい社会を作っていくとの期待もある。災いを転じて福となす。今、世界は、そうした転換ができるかどうかを問われている。
コロナで収入激減は国民の3割
新型コロナウイルスの感染拡大に対する緊急経済対策で、外出自粛や休業要請などの行動制限が行われ、日本経済に大きな打撃を与えた。
ところが、2020年3月の家計調査では、実質消費支出の前年比減少率は6%だった。これは、経済活動自粛による需要の減少は、日本経済の一部に限定された現象であることを示している。
家計調査の品目分類で見ると、対前年同月の実質減少率が消費支出全体のマイナス6%を超えたのは、被服および履物、教育、教養娯楽などの消費支出だけだ。その比率は33.2%。つまり、全体の3分の1の業種で、売上が大きく落ち込んだ。
この消費額の減少は、事業者や就業者の部門別の収入減少率を表していると考えることができる。そうであれば、売上や収入が著しく減少しているのは、全体の約3分の1と考えることができる。
厚生労働省が5月に実施した全国調査によると、収入や雇用について不安を感じている人が全体の3割に上った。この数字は、上述の家計調査から推計した所得減少者の比率とほぼ一致する。
不安を感じている人の内訳を見ると、タクシードライバー(82.1%)、理容・美容・エステ関連(73.0%)、宿泊業・レジャー関連(71.2%)、飲食関連(62.2%)などだ。
この結果を逆に見れば、全体の7割の人は、不安を抱いていないことになる。この事実は、政府の対策がどのように行われるべきかについて、重要な意味を持っている。政策は、所得減で困っている人に集中してなされる必要がある。