2022年1月号掲載
脱炭素で変わる世界経済 ゼロカーボノミクス
著者紹介
概要
日本の脱炭素への意識は、欧米に比べるとまだまだ低い。だが、世界はすでにゼロカーボンへと移行しつつある。それは単に地球温暖化対策にとどまらない。“経済問題”であり“国家間の覇権闘争”でもあるのだ。再生可能エネルギー市場を席巻する中国、猛追する米国…。日本が直視すべきゼロカーボノミクスの実態が示される。
要約
中国ゼロカーボン宣言の衝撃
「中国は二酸化炭素の排出について2030年までにピークに達することを目指し、2060年までに炭素中立、カーボンニュートラル実現を目指して努力する」 ―― 。
2020年9月22日。国連総会の場で、習近平国家主席が中国のゼロカーボンを宣言した。
突然の宣言に、世界の首脳やメディアは驚きを隠さなかった。世界の表向きの反応は「ゼロカーボン宣言したことは歓迎する」というものだったが、欧米諸国からは、宣言の裏に垣間見える「中国の思惑」に対する警戒心がにじみ出ていた。
民主国家とは重みが違う独裁国家の約束
欧米諸国が警戒する理由、それは「中国はゼロカーボンを宣言できる国になったのか」という驚きだ。選挙で政権が代わる民主国家では、ゼロカーボンのような長期的宣言がいつまで守られるのか、疑わしいところがある。一方、独裁政権である中国では宣言の重みがまったく違う。一党独裁の下で示された方針は着実に遂行される。
中国の専門家は、「中国は平均気温上昇を1.5℃に抑えるためのシナリオ、2℃に抑えるためのシナリオを検討し、そのためのシミュレーションを行った。その結果、2030年、2060年という目標年を設定した」と説明している。
ゼロカーボンを宣言した国は数多いが、具体的なシナリオを公表した国はEUなどごくわずかだ。中国は脱炭素をけん引してきたEUと同等、ないしはそれ以上に検討を深めていた可能性が高い。欧米が「中国は勝てると確信して宣言した」と警戒するのは当然なのだ。
中国が経済規模で米国を逆転する日は近い
そして、欧米が中国を警戒する底流には「中国が経済規模で米国を逆転する日」が近づいていることがある。逆転は2030年前後と予測される。
その危機感に新型コロナによる混乱が拍車をかけた。アジア諸国を上回る感染者と死者を出したことで欧米のプライドが揺らぐ一方、中国はいち早く新型コロナを抑え込み、経済回復期に入った。
コロナ禍にあって「米中関係がトゥキディデスの罠(従来の覇権国家と、台頭する新興国家が、戦争が不可避な状態にまで至る現象)の領域に入った」と、世界中の有識者が警鐘を鳴らすことが増えたのはこのためである。
「中国が世界の方針を決めた」という事実
世界最大の人口と二酸化炭素(CO₂)排出量を占める中国がゼロカーボン宣言をしたことは、世界がゼロカーボンに向かうことを決定づけた。すなわち、「中国が世界の方針を決めた」のである。
これこそが最大の驚きであり、欧米が警戒レベルを一気に高めた最大の理由なのだ。