2022年2月号掲載
くじ引き民主主義 政治にイノヴェーションを起こす
- 著者
- 出版社
- 発行日2021年11月30日
- 定価858円
- ページ数213ページ
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著者紹介
概要
選挙ではなく、「くじ引き」で国民の代表を選ぶ ―― 。荒唐無稽に思えるが、この形態が今、世界で広がっている。背景にあるのは、議会や政治家への不信。ポピュリズムが横行するなど、選挙=代表制民主主義は機能不全に陥っている。これに代わり、政治に革新をもたらす「くじ引き民主主義」の仕組み、哲学、そして可能性を示す。
要約
作動しない代表制民主主義
国民の代表となる人々を「くじ引き」で選んだらどうか ―― そういえば驚かれるかもしれない。そんないい加減に政策を決めてもらったら困る、そんな反論が聞こえてきそうだ。
しかし、これは決して荒唐無稽な話ではない。くじ引きで人々が選ばれ、公的な重要な決定について意見を交わすという営みは、現代になって、広くみられるようになっているのだ。
世界の政治変動の背景
21世紀に入って、世界は大きな政治変動に見舞われている。イギリスのEU離脱、トランプ大統領の選出、西欧諸国での極右ポピュリスト政党の出現などは、その象徴的な事例といえる。
これらは、なぜ生じているのか。その背景には、選挙を通じた「代表制民主主義」がもはや機能していないことが挙げられる。
代表制民主主義とは、主権者が代表者たる政治家を選挙で選ぶ仕組みを持つ民主主義のことだ。選挙で主権者は政治家を選ぶ。政治家は官僚を使い主権者のための法律や政策を作る。この民主主義の基本サイクルが目詰まりを起こしているのだ。
高度政治不信社会
世界各国の民主主義の度合いを定期的に調査しているイギリスの調査会社EIUは、2016年にアメリカをそれまでの「完全な民主主義」から「欠陥のある民主主義」へと格下げした。その主たる要因は、アメリカの各世論調査でアメリカ市民の政治への信頼が過去最低になったことだ。
全ての民主主義がそうであるように、代表制民主主義でも、政治への信頼は不可欠な要素だ。
政治学では「プリンシパル(主人)―エージェント(代理人)関係」などというが、「主人」たる有権者が「代理人」たる政治家を使うことで、代表制民主主義は作動する。そこで、もし主人が代理人を信頼していないとしたら ―― 。
実際、21世紀に入ってから「議会を信頼しない」とする各国市民の割合は増加傾向にあり、アメリカでは8割を超えている。
代理人に裏切られたと感じた主人は、彼らを厳しく罰したいと思うだろう。だから、既得権益を批判する素人的な政治家、すなわちポピュリスト政治家が支持を集めるようになるのだ。
代表制への幻滅、民主主義への期待
現代では、多くの国で政治不信が高止まりし、政治家や政党は信頼されておらず、投票率も低下傾向にある。しかしこれは、今ここにある代表制民主主義への幻滅であって、必ずしも民主主義そのものに対する幻滅ではない。