2022年4月号掲載
アメリカ現代思想の教室 リベラリズムからポスト資本主義まで
- 著者
- 出版社
- 発行日2022年1月28日
- 定価1,023円
- ページ数219ページ
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著者紹介
概要
デモクラシーを公然と批判し、人類の平等性を投げ捨てる! 「自由と民主主義の国」アメリカで、今、思想の“地殻変動”が起きている。分岐点は、トランプの大統領就任。彼の登場後、ホンネの欲望が噴出するようになったのだ。本書では、社会の動きを反映して様変わりしていくアメリカ現代思想を、歴史を遡って分析する。
要約
トランプ以後、思想のルールが変わった!
「世界に開かれた自由と民主主義の国」。アメリカはこれまで、そう思われていた。だが、そのアイデンティティが、いま変わり始めている。
ドナルド・トランプの登場以前と以後では、「思想のルール」がまったく変わってしまったのだ。
大手メディアからSNSへ
何が、どう変わったのか。トランプ以前であれば、大統領の重要な政策や方針などは、新聞やテレビなどの大手メディアを中心に発表されていた。ところがトランプは、こうしたメディアの報道を「フェイク・ニュース」と批判し、むしろTwitterなどのSNSを通して重大な案件を呟くようになった。
SNSの特徴は、短い言葉や映像をリアルタイムで発信でき、反響をダイレクトに掴むことができることにある。長い文章を書くより、感情に訴えるよう短く発信すること。理性的な人間をターゲットにするのではなく、国民の無意識的な欲望に訴えることが重要なのだ。
トランプは、SNSという現代メディアを使って、国民の無意識的な欲望を喚起しながら、大きな支持を生み出していったのである。
PCなんてクソくらえ!
では、国民の「無意識的な欲望」とは何か。
それが最もよくわかるのは「ポリティカル・コレクトネス(PC)」に対するトランプの態度だ。PCは、アメリカで1980年代頃から使われ始めた言葉で、人種・宗教・性別などに関して差別や偏見を含まないように表現や用語に注意することだ。
以前は普通に使っていた言葉でも、今ではいろいろな言葉が「差別語」として使われなくなった。例えば、「インディアン」は「ネイティブ・アメリカン」、「黒人」は「アフリカ系アメリカ人」。さらには、他の宗教を考えると、「メリー・クリスマス」さえ言えなくなっている。
これは社会のエリート層にとって、特に重大問題と言える。PCで定められた暗黙のルールを破ると、人々から糾弾されかねないからだ。しかし、トランプはあっさりと公言する。「この国にはPCなバカが多すぎる!」。これを聞いて、溜飲が下がる思いをした人は少なくなかっただろう。
リベラル・デモクラシーの問題点を探る
このように見ると、トランプが何を変えたのかがわかってくる。今まで、政治でも思想でも公言することができず、絶えず抑圧されてきた「ホンネの欲望」が噴出するようになったのである。
今まで、アメリカの現代思想と言えば、PCに守られたタテマエの思想だった。言わば、良識的なエリート層の思想だ。それを、「リベラル・デモクラシー派」(以下、リベラル派)と呼ぼう。