2022年5月号掲載
日本が先進国から脱落する日
著者紹介
概要
他の先進国に比べ、物価や賃金が低い日本。このままだと、日本の1人あたりGDPはOECD平均を下回り、「先進国」から脱落しかねない、と経済学者の野口悠紀雄氏が警鐘を鳴らす。長期停滞の元凶は、アベノミクスの円安政策にあると指摘し、その金融政策を検証。問題点を掘り下げ、復活するために今、何をすべきかを述べる。
要約
信じられないほど貧しくなった日本
日本経済の停滞が、危機的な段階に達している。
問題は何か? 何をすべきか? それを知るには、日本の現状を正しく理解することが不可欠だ。
日本のビッグマック価格は、アメリカの6割
英誌The Economistが、各国のマクドナルドで販売されているビッグマックの価格を調査し、公表している。2021年6月のデータは次の通り。
日本は390円で、1ドル=110円で換算すると、3.55ドル。アメリカは5.65ドル。従って、日本のビッグマックはアメリカの62.8%になる。
だから、アメリカ人が日本でビッグマックを買えば「物価が安い国だ」と感じる。逆に、日本人がアメリカに行けば「物価が高い国だ」と感じる。
また、ユーロ圏のビッグマックは、ドルに換算して5.02ドル、イギリスは4.5ドル。韓国では4.0ドルだ。これらは日本の3.55ドルより高い。ビッグマック価格が日本より低い国は少ない。
価格が安いことより、賃金が低いことが問題
価格が安いのは、それだけを見れば、悪いことではない。所得が決まっているとすれば、価格が安いほど多くのものを購入できるからだ。
では、何が問題か? それは、ビッグマックの価格が安い国では、賃金も安い場合が多いことだ。
OECD(経済協力開発機構)が賃金に関するデータを公表している。2020年のデータでは、日本は3万8515ドルで、アメリカは6万9392ドル。日本の賃金はアメリカの55.5%でしかない。
ヨーロッパは、ドイツは5万3745ドル、イギリスは4万7147ドル、オランダは5万8828ドル。韓国は4万1960ドルで、日本はこれよりも低い。
日本より賃金が低い国は、旧社会主義国と、ギリシャ、イタリア、スペイン、メキシコ、チリぐらいしかない。日本は賃金水準で、OECDの中で最下位グループにいる。