2022年5月号掲載
世界96カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養「世界の民族」超入門
著者紹介
概要
世界史とは、民族問題の歴史である ―― 。中国における非漢民族への弾圧、ロシアのウクライナ侵攻、米国の人種差別…。世界で起きている問題を真に理解するには、出来事の根本にある「民族」について知る必要がある。今日の必須教養といえる民族の知識。そのポイントを、90余りの国々で学んだ元外交官がわかりやすく説く。
要約
民族とは何か
今日、世界で起きている問題のほとんどは、「民族」の問題と関係がある。紛争、格差、人種差別、ナショナリズムの台頭…。すべては民族を理解しているか否かで視座が大きく変わってくる。
「民族=人種」ではない
民族とは何か。その定義は難しく、実は曖昧なものである。研究者による解釈もいろいろで、人種(race)の意味合いを含む場合もある。
人種とは、骨格、皮膚、毛髪、目の色などの外形的形質によって分類した集団である。代表的なものにコーカソイド(白人)、ネグロイド(黒人)、モンゴロイド(黄人)などがある。
だが、人「種」といっても、生物学的な「種(species)」とは違う。同じDNAを持っていても、環境に適応するために姿形は変わる。
最近では「生物学的にいえば人種という区分は存在せず、どの人種も等しくホモ・サピエンスである」という考え方が学術的に正しいとされる。
「民族=国籍・国民」ではない
では、「民族=国籍・国民」か。日本は、日本民族と日本国民の同一性が高いため、「民族も国民も同じだ」と区別しない人が多いが、世界には「民族=国籍」に、違和感を覚える人の方が多い。
歴史を100年、200年遡れば、「国」の形は現在とまったく違っている。
例えば今のインドネシアは、200以上の民族が住み、多様な言葉を話していた地域の一部を、オランダが人工的に「インドネシア」という国にまとめた。だが、住民にすれば形式的なことで、国家への帰属意識は当初はなかなか持ちにくかった。
植民地支配を受けた歴史を持つアジアとアフリカでは、同様のことがいえる国や地域が多数ある。彼らにとって「民族=国籍」ではない。
このように「民族」という言葉の定義には様々な見方がある。本書では、次のように定義する。
「言語や文化、生活習慣、血縁等に関して、同胞仲間意識が広まっている集団。流動性・多層性などの特性を持つ」