2022年11月号掲載
霊と金 スピリチュアル・ビジネスの構造
著者紹介
概要
「霊の曇りを取り除く」「このままでは絶対不幸になる」「先祖供養や開運のため」…。不安をかきたてる言葉で現代人を惑わし、金を搾り取る、霊感商法などの「スピリチュアル・ビジネス」。なぜ、こうした商法が栄え、人は簡単に騙されてしまうのか? 社会の変化と人間の心の両面から、「霊と金」の関係を読み解く。
要約
神世界とヒーリング・サロン
2007年12月20日、神奈川県警勤務の警視が、有限会社「びびっととうきょう・青山サロン」というヒーリング・サロンに不適切な関与をしていたことが報じられた。また、同月26日には、「霊感商法神世界 北大准教授が勧誘か」と大見出しを付けた北海道新聞の記事が出た。
有限会社びびっととうきょうは、有限会社神世界系列の会社である。
神霊治癒を行う新宗教
「神世界」は、2000年に「千手観音教会」という宗教団体の事業部門を有限会社化してつくられた営利法人である。千手観音教会は宗教法人の認証を受けていない任意の宗教団体であるが、「参拝の栞」という教典を刊行している。
その内容をまとめると、「大本」で説かれた「五六七」出現のためのひな形建設が「世界救世教」を創始した岡田茂吉により準備され、神は最後の審判と救済を行うために、人類救済の機関として千手観音教会を建てたということである。
大本とは、明治25(1892)年に出口なおと娘婿の出口王仁三郎により創始された新宗教である。世の立て替え・立て直しという体制批判に通じる教えと、鎮魂帰神と呼ばれる霊術的な癒しの行法により、30万人余りの信者を有していた。
だが、王仁三郎の急進的な思想とそれに共鳴する政府関係者がいたことなどにより、政府に危険視されるようになる。大正10(1921)年と昭和10(1935)年に、不敬罪や治安維持法違反の容疑で、教祖以下の幹部が収監された。戦後は、戦前の勢いを回復するには至らなかったが、大本はその後の日本の新宗教に大きな影響を与えた。
浄霊の技法
大本の影響を強く受けたのが、世界救世教である。創設者の岡田茂吉は大本の信者で、昭和10年に「大日本観音会」を設立。昭和24(1949)年に「日本五六七教」、昭和25(1950)年に世界救世教と名称を変更して現在に至っている。
岡田の提唱した自然農法、浄霊、日本の美術振興は、世界救世教から分派した新宗教教団にも受け継がれている。浄霊は、手かざしとして知られているが、掌から発する霊光による治癒をめざす。
岡田によれば、人間は日々の生活で心身に汚れたものを蓄積するため、霊が曇り、身体には毒素が溜まる。人間には自己治癒力があるので毒素を排出しようとして病になったり、不幸や災難といった出来事に遭遇したりする。岡田は神から授かった力により、霊の曇りを取り除き、浄化を促進して病や厄災をなくすことができると語った。
神道系・仏教系の新宗教を除けば、浄霊の儀礼を行う新宗教は極めて大きな勢力を日本の宗教界に持っている。前述のヒーリング・サロンで教えられるヒーリングとは、浄霊そのものである。