2023年3月号掲載
ヴォロディミル・ゼレンスキー ――喜劇役者から司令官になった男
Original Title :Volodymyr Zelensky:L'Ukraine dans le sang (2022年刊)
- 著者
- 出版社
- 発行日2022年12月30日
- 定価1,980円
- ページ数243ページ
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著者紹介
概要
開戦から1年を迎えるウクライナ侵攻。ロシアに毅然と立ち向かうゼレンスキー大統領の言動は、国内外から注目を集めている。彼は一体、どんな人物なのか。第一級ジャーナリストが、膨大なインタビューと現地取材からその実像に迫った。ゼレンスキーが内包する光と影、強みと弱みを公平な視点で綴った、初の本格評伝である。
要約
ゼレンスキーの経歴
ウクライナの戦争の指揮を委ねられたのは、1人の喜劇役者だった。
ヴォロディミル・オレクサンドロヴィチ・ゼレンスキー。彼は喜劇役者というその肩書ゆえに、暴力と無縁だったわけではない。彼は何度となく暴力を茶化しもし、暴力は言葉で抑えられると考えてきた。だがそれも、ロシアが侵攻を開始する2022年2月24日までの話だ。
巧みに即興の演技をこなし、喜劇役者としての経歴を積んできたこの男は、この日、戦争指導者に変貌した。ゼレンスキーは44歳にして、全世界に向けて軍事支援を訴えることになった。
生い立ち
ゼレンスキーの両親 ―― 父親は情報工学の教授、母親はエンジニア ―― は、労働者階級の中で地位を築いた知識人であった。やがて大統領となる彼は、「ならず者の町」という悪評で知られたウクライナのクリヴィー・リフで、1978年1月25日に生まれた。当時のウクライナはまだ社会主義国で、ソ連に属していた。
ゼレンスキーが13歳になった1991年、ウクライナは独立を宣言する。国民投票の結果、「独立賛成」が90%以上を占めて勝利した。
その2年前にベルリンの壁が崩壊し、ソ連は消滅した。彼が住む町はみるみる衰退していった。人々は失業し、若者の一部が暴力沙汰を引き起こして、町を荒廃させた。そんな中、彼は仲間とともに、当時、大流行していた寸劇やコントで腕を競い合っていた。
国内外の人気者へ
1997年、ゼレンスキーは友人たちとともに劇団「第95街区」を結成する。座長にはゼレンスキーが就任した。彼はコントの台本執筆と演出を担当し、自らも出演した。
劇団はロシアで開催されるコメディ・コンテストに招待されるなど、話題になった。だが、ロシア進出から6年経った時、一座と番組の主催者側との間に対立が生じた。ディレクターがゼレンスキーに劇団からの独立を提案し、コメディ作家として売り出さないかともちかけたのだ。
彼はこの申し出を断った。その結果、人気を呼んだ劇団「第95街区」の時代は2003年に幕を下ろす。劇団はクリヴィー・リフに活動拠点を戻し、そこでゼレンスキーはオレーナと結婚する。2人はコメディアンたちとともに制作会社「スタジオ第95街区」を設立し、首都キーウでバラエティ番組の企画を売り込み、歌やコントを披露した。彼のマルチタレントぶりは大衆を魅了した。
そしてこの頃から、上演するコメディには、政治風刺という要素が加わっていく。一座が風刺のターゲットとしたのは、ウクライナの政治家たちや外国の政治指導者たちだった。独裁政権の国が多い地域でこうした賭けに出ることはかなりのリスクをはらんでいたが、ゼレンスキーはリスクにやみくもに怯えることはなかった。
この制作会社の成功と、ゼレンスキーの人気は留まることを知らなかった。このコメディ作家は、ウクライナの、そして国境を越えて他の国の娯楽の世界を破竹の勢いで席巻していった。