2023年5月号掲載
イスラエル 人類史上最もやっかいな問題
Original Title :CAN WE TALK ABOUT ISRAEL? (2021年刊)
著者紹介
概要
「イスラエル人とパレスチナ人はどちらも正しく、どちらも間違っている」。こう語る著者が、イスラエルについて知っておくべきことを1冊にまとめた。ユダヤ人・パレスチナ人の起源とは? なぜ紛争が続くのか? そもそも、何が問題なのか? 中東の小国にして、世界が注目する“この国”を、正しく理解するための入門書だ。
要約
始まりはどこに?
グーグルで「イスラエル紛争」を検索すると、1億8180万件もヒットする。これは世界中の人々が、このテーマについてひとかたならぬ思い入れを抱いていることを示している。
とはいえ、その思い入れを支えているものが、事実であるとは限らない。この紛争に関する大量のウェブサイトを見ると、そのほとんどが、一方が正しく、他方が間違っていると熱心に説いている。だが、真実はこうだ。
イスラエル人とパレスチナ人は、どちらも正しく、どちらも間違っている ―― 。
(聖書にある)始まり(紀元前20世紀頃~)
ユダヤ人の中にイスラエルという概念が初めて現れるのは、ヘブライ語聖書においてである。『創世記』で、神はアブラハムにこう告げる。
「あなたは生まれ故郷、父の家を離れて、私が示す地に行きなさい」
その土地がカナンだ。カナンは「約束の地」であり、後にイスラエルとして知られるようになる。
だが、聖書の物語の中で、神がアブラハムに約束した正確な領地ははっきりしない。『出エジプト記』では、神はイスラエル人にナイル川からユーフラテス川までのすべての土地を与えているが、『ヨシュア記』ではイスラエル人が征服したのはカナンのみである。とはいえ、そこには現在のイスラエルに加え、ヨルダン川西岸とガザ地区のパレスチナ自治区が含まれている。
ユダヤ人の考え方
このように、物語の最初から事態は複雑だった。
ヘブライ語聖書は、ユダヤ人とユダヤ教の起源を示す物語だ。ある人々にとっては、知恵の貯蔵庫であり、また別の人々にとっては、文字通り神の言葉である。いずれにせよ、「約束の地」の物語は根を下ろし、何世紀にもわたってイスラエルの地に暮らすユダヤ人は、こう理解していた。
―― その土地と自分たちとのつながりは、創世記で神がアブラハムになす約束、つまり「あなたの子孫にこの地を与える」に根源がある、と。
ユダヤ人は、数千年にわたる戦争、追放、流浪の経験を経てもなお、この約束に対する信仰を失わなかった。こうした考え方の力が、数千年に及ぶ苦難の歴史に耐え、団結の原理として機能してきたのだ。聖書を文字通りに信じる人々にとって、1948年のイスラエル建国は、アブラハムに対する神の約束が実現したことを意味していた。