2023年7月号掲載

資本主義の次に来る世界

Original Title :LESS IS MORE (2020年刊)

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著者紹介

概要

気温上昇、動植物の絶滅、格差拡大…。近年、急速に地球環境や社会が悪化している。原因は、成長を追い求める「資本主義」だ。本書はこう指摘し、各種統計、研究を引きつつ、成長がもたらすマイナス面を解説。「語りたいのは希望」という経済人類学者が、人類や地球に不幸と破滅をもたらさない、「成長に依存しない」社会を描く。

要約

良い人生に必要なものとは何か

 「人々の生活を向上させ続けるには、成長し続ける必要がある」

 経済学者や政策立案者は、こう語る。実に説得力のある主張で、正しいように思える。しかし、現在、科学者と歴史家はこの筋書きを疑っている。

人間の福利の向上をもたらしたもの

 今日の歴史家は、“簡単な介入”が平均寿命や人間の福利の向上をもたらしたと指摘する。その介入とは、公衆衛生だ。

 1800年代半ば頃、公衆衛生の研究者たちは、飲料水と下水を分けるといった簡単な衛生対策によって公衆の健康を改善できることを発見した。必要なのは、公共の配管設備だけだ。

 それを設置するには、公共事業と公的資金が必要になる。また、私有地を掘り返すことになるが、地主たちは土地の使用を許可しなかった。

 こうした上流階級の抵抗は、平民が選挙権を獲得し、労働者が組合を組織して初めて破られた。活動家は、都市はすべての人の利益のために運営されるべきだというビジョンを実現するために戦った。これらの運動は公衆衛生システムだけでなく、公的医療制度、公教育、公営住宅を実現した。

 歴史家サイモン・シュレーターは、そうした公共財へのアクセスは、人々の健康に多大なプラスの影響を及ぼし、20世紀を通じて平均寿命の延びに拍車をかけたという。この説明は現在、公衆衛生の研究者たちに強く支持されている。

GDPと人間の福利

 もちろん、公的医療保険や公衆衛生設備などは財源を必要とする。経済成長はそれらの実現を助けるだろう。しかし、ここが肝心な点だが、人間の福利を向上させるための介入は、高レベルのGDP(国内総生産)を必要としない。事実、国民1人当たりのGDPは比較的低いのに、驚くほど高レベルの福利を実現している国は多い。

 このパターンは、平均寿命だけでなく教育についても見られる。フィンランドは世界最高レベルの教育システムを持つが、国民1人当たりのGDPは米国より25%低い。エストニアも教育は世界最高レベルだが、所得は米国より65%低い。

GDPと幸福度

 幸福感や充実感についてはどうか。GDPが増えたら、これらの主観的な指数が上昇するのか?

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