2023年7月号掲載
理念経営2.0 ――会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ
著者紹介
概要
これからの企業において、“理念”は経営資源の核となる ―― 。周りをワクワクさせるビジョン、組織が協働するカギとなるバリュー、自社の存在意義を明確化したミッション。企業の価値が「利益」よりも「意義」で測られるようになりつつある昨今、これらの理念をいかにしてつくるか。戦略デザイナーがその具体策を詳述する。
要約
21世紀の企業理念
2020年4月にコロナ禍に伴う緊急事態宣言が出て、企業の日常風景は変わった。リモート会議が当たり前になり、IT化が加速。CO₂削減のゴールが設定され、環境配慮が前提になりつつある。
その中でも特筆すべきは、働く人の意識の変化だ。仕事に意義を求める人々が20~30代の間で急速に増えている。給料が高くても生きがいにつながらない仕事をやめて、給料が低くても生きがいにつながる仕事を選ぶようになってきている。
「利益を生み出す場」から「意義を生み出す場」へ
今、企業現場で起きている変化の本質を端的に言えば、「どれだけ儲かるか?」というシンプルなゲームの中に「“よい儲け”か?」というまったく異質の基準が入ってきているということだ。
「儲け」は大事だが、儲けるプロセスの中で、環境破壊をしていたり、人権を侵害したりしていたら、それは「よい儲け」とはいえない。
このような環境変化を受けて、これからの会社経営には「新たな常識」が生まれつつある。
これまでの企業は「利益を生み出す場」だった。しかし、これからの企業は「意義を生み出す場」になる。その経営のコアリソースとなるのが、会社の持つ哲学や思想、つまり、ビジョン・バリュー・ミッションに代表される「企業理念」だ。
理念経営の新しい常識
企業理念をつくる時、これまでは創業者が大事にしたい原則を言語化していた。しかし現代では、創業者の理念を一方的に浸透させようとしても、社員にはなかなか響かない。それは、世の中の価値観が多様化し、「トップの価値観=組織の価値観」とはなりにくくなっているからだ。
これからの企業理念は、「みんなの物語」の源泉としての性格を持つようになる。そんな理念をつくるには、組織の中に暗黙裡に存在する思想を言語化していくことが必要となる。
ここで、社長の企業理念を植えつけていくスタイルが「理念経営1.0」であるとすれば、「みんなの価値創造の物語を生むためのソース」として企業理念を位置づけていくあり方は「理念経営2.0」と呼ぶことができる。
企業理念をとりまく課題
現代の組織における問題の多くは、企業理念に関わる何らかの不具合に由来している。様々な企業の理念デザインを支援してきた経験からすると、企業理念に関わる課題は次の2つに大別される。
- ①企業理念が存在しない
- ②企業理念が生きていない
前者は、そもそも理念が定められていないケースや、何らかの理念があっても時代変化に伴って古くなっているケースなどだ。この場合、まず企業理念の「つくり方」から伝えていく必要がある。