2023年9月号掲載
米中冷戦がもたらす経営の新常識15選
著者紹介
概要
軍事、経済など様々な領域で、米中の覇権争いが熾烈を極めている。加速する中国の核兵器開発、半導体分野における米国の「宣戦布告」…。民主主義と一党独裁という、イデオロギーを異にする両者の争いはどこへ向かうのか。日本企業の戦略策定にも大きな影響を及ぼす“米中新冷戦”の実情、その行方を客観的に分析する。
要約
2023年は米中デカップリング元年
2023年は、「米中経済のデカップリング元年」として歴史に刻まれるだろう。中国の核の脅威が増し、“米ソ冷戦”と類似の道をたどる。
中国の核兵器開発に制限はない
実際、中国は核弾頭開発を加速させている。米国の国防総省は、中国の核弾頭は2035年には1500発以上になると報告しており、かなりのハイペースで核兵器生産を行っている。
そして、中国は「米国との核兵器開発に関する対話」を拒んでおり、米中2国間において核兵器開発に関する対話は一切ない。1970年代からの「米ソ戦略兵器制限交渉(SALT)」や1980~90年代の「戦略兵器削減交渉(START)」などのような交渉の場も米中にはまったくない。
すなわち、現在、中国の核兵器開発に制限はなく、米国に対する核兵器の優位性を向上させるため生産をしたたかに加速させている。
新たに強化された西側の軍事同盟
一方、米国も軍事面の安全保障体制の強化を急いでいる。第2次世界大戦後、米国が信頼を寄せてきた同盟・パートナー関係の核は、「Five Eyes(ファイブ・アイズ)」「北大西洋条約機構(NATO)」「日米同盟」「米韓同盟」である。
これらの他にも、中国包囲網を目指して、新たに軍事同盟やパートナー関係が追加されている。
例えば、2021年に米英2国間で「新大西洋憲章」が合意された。中国に対し西側の中核となる米英が、その役割を果たす基盤となるだろう。加えて、21年には「AUKUS(オーカス:米英豪)」「Quad(クアッド:日米豪印)」も発足している。
「NATOと米国の同盟国」が世界の警察に
NATOのアジアへの関与も積極的になっている。この動きは、「世界の警察としての役割」が、「米国1国」から「NATOと米国の同盟国」に移行したことを意味している。
こうした背景から、近日予定されている「日・NATO国別パートナーシップ協力プログラム(日本とNATOの協力の主要指針、協力原則と分野等の合意)」の改定は、日本の安全保障政策にとって「もろ刃の剣の協力関係」となる可能性が高い。この改定次第で、「日本の平和のために有効となるか」または「日本が戦争に巻き込まれていくことになるか」の分水嶺になるだろう。
岸田首相は2022年6月のNATO首脳会合に出席し、NATOのインド太平洋地域への関与拡大を歓迎した。しかし、この協力関係には落とし穴がある。それは、「パートナー協力の定義と内容」が曖昧な点である。そのため、NATOと日本双方ともにどこまで軍事支援をするか線引きは難しい。
NATOの加盟国条約第5条には、「集団的自衛権」が明記されている。「加盟国1国が武力攻撃を受けた場合は、全加盟国に対する攻撃と見なし、兵力使用を含む反撃をする」というものだ。