2023年12月号掲載

プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」

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著者紹介

概要

経済大国から貧困大国へ ―― 。かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称された日本経済も、今は昔。30年近く賃金は上がらず、購買力は先進国で最低レベルまで落ち込んだ。著者いわく、凋落の根本にあるのは経済政策の失敗だ。円安政策や補助金バラマキなど、政府の経済運営の問題点に、野口悠紀雄氏が鋭く切り込む。

要約

昔はこうではなかった

 日本の貧しさが、様々なところで目につく。アベノミクスと大規模金融緩和が行われたこの10年間の日本の凋落ぶりは、目を覆わんばかりだ。

 1人当たりGDPでみると、2012年には日本はアメリカとほぼ同水準だった。しかし、現在では約3分の1になってしまった ―― 。

産業構造の変化と賃金停滞

 今後の日本経済にとって重要な意味を持つと言われるのが、大幅な賃上げを実現できるかどうかという問題だ。では、大幅な賃上げは可能か?

 1990年代の中頃までは、日本のどの産業の賃金も傾向的に上昇していた。だが、それ以降は上昇しなくなった。つまり、賃金停滞は30年近く続いている。なぜ、賃金が頭打ちになったのか?

 まず、これは「分配率」の低下によるものではない。「付加価値」に対する賃金総額の比率は、どの産業でも1970年代の中頃以降、ほぼ一定だ(ここでの付加価値は、人件費、支払利息等、動産・不動産賃借料、租税公課、営業純益の計)。

 また、分配率を引き上げても、継続的な賃上げは実現できない。多くの人は、賃上げとは分配率を引き上げることだと考えている。だが、そうしたことを続ければ企業の利益が減少し、破綻する。

 安倍内閣は賃上げのために春闘に介入したり、賃上げ税制を導入したりした。しかし、これらは生産性には何の影響も与えない。だから、賃上げは実現しなかった。これは、当たり前のことだ。

賃金停滞の基本要因は技術開発の停滞

 「日本で賃金が上がらないのは、物価が上がらないからだ」と言われてきた。そして、物価が上がれば賃金も上がるとされて、金融緩和が行われた。金融緩和はとめどもなく続けられたが、効果は一向に現れなかった。

 経済理論によれば、賃金は「資本装備率」と「全要素生産性」で決まる。資本装備率とは、従業員1人当たりの「有形固定資産額」(法人企業統計調査はこれを「労働生産性」と呼ぶ)だ。

 資本装備率は、90年代までは上昇した。しかし、その後は低下し、2005年頃以降は、ほぼ一定の値だ。これが賃金停滞の原因の1つになっている。しかし、それだけではない。

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