2023年12月号掲載
静寂の技法 最良の人生を導く「静けさ」の力
Original Title :GOLDEN (2022年刊)
著者紹介
概要
かつて、ピタゴラスは言った。「黙すことを学べ」。古代ギリシアの哲学者は、“静寂”こそ物事の根源を見抜くカギだと見ていた。しかし今、私たちは様々な騒音や情報にまみれた世界で生きている。そんな中、いかにして静寂を育むかを説いた書。「静けさ」の力によって、自分を高め、より良い人生を築くための実践的な方法を示す。
要約
騒音が増加した理由
過去半世紀の間にマインドフルネス瞑想は、ミャンマーとタイにある僧院から、アップルやグーグル、国防総省といった主要な権力の牙城へと広がっていった。この人気の原因は単純明快だ。騒音がひどくなる一方の現実世界で、静寂に対する根深い切望がある ―― 。
聴覚騒音
今、騒音がかつてないほど蔓延している。まず、耳に聞こえる「聴覚騒音」。通りを多くの車が走り、空には多くの飛行機が飛び、多くの機械や機器が騒音を立てる。欧州全土で人口の約65%に当たる4億5000万人が、世界保健機関が「健康に有害」と見なす騒音レベルの中で暮らしている。
情報騒音
増加している騒音には、別の種類のものもある。「情報騒音」だ。2010年、当時グーグルのCEOだったエリック・シュミットは言った。
「今では私たちは2日ごとに、文明の夜明けから2003年までに生み出したのと同じだけの情報を生み出している」
すなわち、人の注意を引こうとする精神的な刺激が増えている。最新のデータによれば、アメリカ人は1986年の5倍の情報を入手している。
問題は、私たちはこれほど多くの情報を扱えるのか、ということだ。世の中で増加する一方の情報が多くの恵みをもたらすことには、疑問の余地がない。だが、これは覚えておかなければならない。データは増えていくが、それを処理する私たちの能力は上がらないのだ。
学者のハーバート・サイモンは、こう言った。
「情報は、受け取る人間の注意を消費する。従って、豊富な情報は注意の貧困を生み出す」
内部騒音
ここから新たな騒音が生まれる。「内部騒音」だ。電子メールやソーシャルメディアの通知が届く頻度が増すと、「常時オンであること」、すなわち、いつでも読んで反応して返信できる状態でいることが、次第に当然と思われるようになる。
この内部騒音が、私たちの意識を奪う。目の前のことに集中したり、自分の心の衝動をうまく処理したりするのを難しくする。
内部騒音のレベルを定量的に測定するのは難しい。それでも注意散漫、ストレスと不安のレベルの高まり、意識を集中させづらいという自己報告などを通して問題の証拠を目にすることが可能だ。