2024年1月号掲載
世界史の中のパレスチナ問題
- 著者
- 出版社
- 発行日2013年1月20日
- 定価1,320円
- ページ数423ページ
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著者紹介
概要
アラブとユダヤの「民族」的対立が続くパレスチナ。両者の争いを生じさせたものは何か? アラブ世界の多様な言語と宗教、近代の「国民国家」システム、第一次世界大戦以降の国際政治…。この地の歴史を辿り、問題の構造を解き明かす。イスラエルとハマスの対立が先鋭化する今日、中東問題の背景を知る上で好適な書である。
要約
パレスチナという地域、宗教と言語
現在イスラエルという国家がある場所(西アジアの地中海南東岸)は、かつて「パレスチナ」と呼ばれていた。パレスチナはもともと、聖書にまつわる「聖地エルサレム」を中心とした、漠然とした地域を指す。
この地は「カナン」とも呼ばれる。カナンは、「聖書におけるパレスチナの称。神がアブラハムとその子孫に与えると約束した地」であり、紀元前13世紀頃、イスラエルの民が定住したという。
パレスチナという名の地域は、ローマ時代に一度、行政区として存在したことがあるが、以来、近代に至るまでパレスチナがはっきりとした国家名、行政区としての名称をもったことはない。
アラブ連盟加盟国
現在、広く使用されている意味での「中東」は、西アジアから北アフリカを含む地域を指す。言語文化的には、アラビア語圏、トルコ語圏、ペルシア語圏などの地域を含む。
パレスチナは、中東のアラビア語圏の西アジアと北アフリカの結節点に位置している。そんな中東地域の心臓部に相当するパレスチナに、1948年、ユダヤ人国家イスラエルが建設された。
このアラビア語圏を統合しようとする政治的組織として1945年に設立されたのが「アラブ連盟」である。アラブ連盟はアラブの統一を目指す国際機関であり、現在、エジプトやイラク、ヨルダン、サウジアラビア、イエメンなど21カ国と1自治政府(パレスチナ)が加盟している。
スンナ派ムスリムが多数派
パレスチナは多文化的性格をもつ社会である。
かつて、パレスチナ人口の90%はスンナ(スンニー)派のムスリムだった。この多数派であるスンナ派ムスリムは、日常生活ではアラビア語を話す。では、少数派の言語と宗教は何か? それは次の3つに分類できる。
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- ①アラビア語以外を話し、宗教的にはスンナ派ムスリムに属する人々。
- ②アラビア語を話すが、宗教的にはスンナ派ムスリム以外に属する人々。
- ③アラビア語以外を話し、宗教的にはスンナ派ムスリム以外の人々。
アラビア語を話しているユダヤ教徒
ここで注目すべきは、②に分類される「アラビア語を話しているユダヤ教徒」だ。アラビア語を話すユダヤ教徒など存在するのか? 存在する。注意してほしいのは、ここではユダヤ教徒と表現しており、「ユダヤ人」とは言っていない点である。
この「アラビア語を話しているユダヤ教徒」という表現は、パレスチナ問題の本質を考える上でとても重要だ。というのも、我々はアラブとイスラエルの「民族」的な対立を自明のものとして考えてしまう傾向があるからだ。
「アラビア語を話しているユダヤ教徒」が存在したということは、この「民族」的な対立は決して「2000年来の宿命の対立」などではなく、アラブ人やユダヤ人という「民族」意識が近代になってナショナリズムのイデオロギーにより形成されたということを意味する。