2024年2月号掲載

残酷すぎる 幸せとお金の経済学

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著者紹介

概要

“幸せ”の感じ方は人それぞれ。これを統計的に分析し、幸せの度合いを決める要因を明らかにするのが「幸福の経済学」だ。その最新の研究成果を、気鋭の経済学者が紹介する。お金持ちほど幸せになれる、弟がいる長女は年収が低い傾向にある等々。出世や結婚、家族構成にまつわる衝撃的事実を示し、“幸せの正体”を解き明かす。

要約

幸せはお金で買えるのか

 「幸せ」は、もともと哲学や倫理学などの分析対象だったが、1990年代以降に経済学でも分析されるようになってきた。この分野、すなわち「幸福の経済学」は、私たちの幸せを統計的に分析し、幸せに影響する要因を明らかにしていく。

 そしてここ30年間で、幸福の経済学の研究によって、幸せに関する様々な事実がわかってきている。その興味深い分析結果を紹介していこう。

幸せは1000万円で頭打ち

 最初のテーマは、「お金と幸せ」である。

 年収と幸福度に関しては、2010年に公表された、2人の研究者による有名な論文がある。著者はプリンストン大学のダニエル・カーネマン名誉教授とアンガス・ディートン教授で、共にノーベル経済学賞受賞者である。この2人の分析結果は、非常に興味深いものだった。

 彼らはギャラップ社が実施した調査を用い、年収と幸福度の関係を分析した。その結果、「年収が6万~9万ドル(約840~1260万円)になるまで幸福度は上がり続けるが、それ以上になると幸福度が上昇しなくなる」ことを明らかにした。

 彼らの分析結果は、「幸せになるには7.5万ドル(6万ドルと9万ドルの中間の値。約1000万円)まで稼げばいい」という明確なメッセージとなり、その後の研究に大きな影響をもたらした。

最新の研究では、お金があるほど幸福度も高い

 しかし、この研究結果は覆されることになる。

 2023年、カーネマン名誉教授はペンシルバニア大学のバーバラ・メラーズ教授らとともに、新たな研究を発表した。この研究でも年収と幸福度の関係に注目しているが、以前とは違った結論となった。端的に言えば、「年収が7.5万ドル以上になっても、幸福度は伸び続ける」というものだ。

 実は近年、幸福度が低いグループと高いグループでは、学歴や健康、就業状態といった様々な要因の影響が異なることが明らかにされており、カーネマンらの研究もその流れの1つと言える。

所得格差は幸福度格差につながるのか?

 「お金持ちほど幸せになれる」ということは、社会の一部の富裕層が高い幸福度を実感し、それ以外の人々は低い幸福度となることを意味する。

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