2024年2月号掲載
歴史としての二十世紀
著者紹介
概要
20世紀の戦争はなぜ起こり、なぜ各国に甚大な被害をもたらしたのか? 国際政治学者・高坂正堯が「戦争の世紀」を振り返った。その分析は、ロシアや中東など戦争の脅威が高まる今日の世界に、改めて政治と外交が果たすべき責任を突きつける。冷戦終結期の1990年に行われた氏の“幻の名講演”を、初めて書籍化したもの。
要約
戦争の世紀
現代社会は大きな転換点にある。1つの時代が終わりつつあることは誰しも感じているだろう。
しかし、社会を動かすような新しい思想が生まれたわけではない。むしろ明らかになったのは、共産主義の崩壊によって大きな物語が世界では通用しないという否定的側面である。
そこで、20世紀に起こった大きな出来事を振り返り、我々がどのような時代に生きてきたかを考察しよう。
この時代の大きな出来事。その1つが、戦争だ。
1914年7月28日
20世紀には、2つの大きな戦争が行われた。そして、第一次大戦、第二次大戦から現代に至る80年間に、戦争に対する見方も大きく変化した。
第一次大戦は1914年7月28日に始まった。この時、2つのことが顕著だった。
1つは、戦いは長く続かないと思われていたこと。しかし、実際には戦争終結までの年月、被害や死傷者も、当初の予想をはるかに超えた。
もう1つは、第一次大戦が勃発した時、かつて例がないほどみんなが喜んだということである。しかも喜んだのは軍人や政治家ではなく、一般の民衆だった。これは、大変意外な事実である。当時の歴史的記録を読むと、兵隊が出征する時、自発的に人々が沿道に溢れんばかりに集まって、彼らを戦地に送りだしたという。
しかし当然のことながら、戦争は決して楽しい出来事ではなく、しかも想像以上に長くかかったため、終わる時までには、戦争はもうこりごりだ、という気持ちが人々の心を占めるようになった。
その意味で、第一次大戦の開戦時と戦争終結時で、2つの点で予想外の戦争になってしまったということがまず注目される。
第一次大戦が長期化した原因
第1に、軍人たちは早く戦争に決着をつけることができる、と考えていた。しかも、彼らは非常に楽な戦争が自分たちを待ち受けているというように思っていたふしがある。