2024年3月号掲載

民主主義と資本主義の危機

Original Title :THE CRISIS OF DEMOCRATIC CAPITALISM (2023年刊)

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著者紹介

概要

民主主義と資本主義。冷戦後の世界を支えた2つの原理が今、岐路に立っている。それを示すのが、トランプ前大統領をはじめとした自由で民主的な価値観と相容れない指導者の台頭だ。背景に何があるのか? 格差の拡大やエリートへの不信…。本書は政治と経済が犯した失敗と人々の怒りを明らかにし、どう改革すべきかを論じる。

要約

大事なのは経済なのだ、愚か者よ

 今、民主主義と資本主義、つまり「民主資本主義」が危機に瀕している ―― 。

 この数十年で、民主主義、グローバルな市場経済、政治エリートと経済エリートへの信頼が失われてきた。それをよく表しているのが、保護主義の台頭、移民への敵意、そして急速に影響力を高めている権威主義的ポピュリズムだ。

 これらの根底には何があるのか?

 まず、中流階級の空洞化だ。所得分布の中央値にあたる人々が社会経済的地位を失っていく情勢は、これまでの40年で、アメリカをはじめ高所得国内の政治をじわじわと追い詰めた。2007年からの世界金融危機がそれに追い討ちをかけた。

 このような形で政治体制が脆弱になると、これまで予想しなかったような事態が起こりうる。2016年にイギリスのEU離脱(ブレグジット)が決まったり、アメリカ大統領選でトランプが当選したりしたように。

 EUも危うい状態だ。「経済的困窮と格差と移民がポピュリストの出現を促す」というなら、すでにEUにはこの3つすべてが揃っている。

「ステータス不安」の経済学

 ポピュリストの政治家が掲げる理念は、なぜ多くの人の支持を集めるのか。それを考える助けとなるのが「ステータス不安」というキーワードだ。

 トランプの「アメリカを再び偉大な国にする」は、このステータス不安に狙いを定めたスローガンだ。ブレグジットのスローガン「コントロールを取り戻せ」も同様で、「政治家に見捨てられたと感じて不満を抱いていた多くの普通の市民が激しい怒りを発散する機会」を提供した。だからこそ、肉体労働者の64%がEU離脱に賛成票を投じたのに対し、経営管理層と専門職は43%だった。

 非大卒の白人アメリカ人が2016年にトランプに投票した割合は、ヒラリー・クリントンに比べて20%多かった。昔は良かったと感じる人々が、「その時代を取り戻したい」と投票したのだ。

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