2024年4月号掲載
アメリカのイスラーム観 変わるイスラエル支持路線
- 著者
- 出版社
- 発行日2024年1月15日
- 定価1,100円
- ページ数271ページ
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著者紹介
概要
戦後アメリカは、アフガン戦争やイラク戦争など、イスラーム世界への軍事介入を続けてきた。一方で、エルサレムをイスラエルの首都と認めるなど、親ユダヤの姿勢を取る。だが今、アメリカの対イスラーム観は若者を中心に変容しつつある。本書は、その背景にあるものを明らかにし、アメリカとイスラームの関係性を考察する。
要約
アメリカとイスラーム世界に横たわる問題
アイルランド移民の孫であったジョン・F・ケネディはかつて、アメリカを「移民の社会」と形容し、アメリカ社会の多様性について語った。
事実、独立戦争では、ジョージ・ワシントンとともにアラブ人の兵士が戦った。また、アメリカ音楽のブルースやモダン・ジャズの世界をつくり上げたのはムスリム(イスラーム教徒)たちだ。
アメリカ政治の象徴とも言えるワシントンDCの議事堂もイスラームの建築様式に基づいて造られている。9・11同時多発テロで倒壊した世界貿易センタービルは、欧米とイスラームの宥和の象徴として建てられたものだ。
ムスリムたちはアメリカの文化・社会に多大な貢献をしてきた。その一方で、戦後、アメリカは中東イスラーム世界への軍事介入を続けている。
ベトナム戦争とアフガン戦争のアナロジー
2001年9月11日、同時多発テロが発生した。ブッシュ大統領は直ちに「テロとの戦争」を呼びかけ、アフガニスタンへの攻撃を開始。米軍をはじめNATO主体の有志連合軍の圧倒的な軍事力によって、2001年11月にタリバン政権は崩壊した。
翌12月にアメリカの後押しでアフガニスタンの新体制が発足したが、タリバン勢力は根強く武力による抵抗を続けた。タリバンが衰えなかったのは、アフガン政府に対する国民の信頼がなかったからだ。政府・軍幹部の腐敗は深刻で、それがタリバンへの支持を強めることとなった。
その後、米軍は2021年8月にアフガニスタンから撤退し、結局、ベトナム戦争の際に南ベトナムを見捨てたことの二の舞となった。
「ペンタゴン・ペーパーズ」と「アフガニスタン・ペーパーズ」
1971年、ベトナム戦争に関する機密情報「ペンタゴン・ペーパーズ」が暴露された。
そこには、「我々がベトナムにいる理由の10%は南ベトナムを守るため、20%は中国を牽制するため、70%はアメリカのメンツを保つためである」と書かれてあり、アメリカが真摯にベトナム戦争を戦っていなかったことが明らかになった。この暴露によって、米国内ではベトナム反戦運動が一気に高揚していった。
同様に、2019年12月に「ワシントンポスト」が明らかにした「アフガニスタン・ペーパーズ」でも、ブッシュ、オバマ、トランプ政権がアフガン政策について米国民や世界を欺いてきたことが明白となった。政治家たちがアフガニスタン政策についてウソをついていたばかりか、米軍指導者たちも、タリバンを制圧できていないにもかかわらず、甘い見通しを語っていたことが判明した。
当初からアメリカには、戦争による破壊からアフガニスタンを復興させる姿勢も希薄だった。