2024年4月号掲載
パラサイト難婚社会
- 著者
- 出版社
- 発行日2024年2月28日
- 定価990円
- ページ数275ページ
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著者紹介
概要
「皆婚」から「難婚」、そして「結婚不要」へ ―― 。昭和から令和にかけて、“結婚”をめぐる社会的環境は大きく変化した。かつて結婚は生活水準を向上させるものだったが、今やそのメリットを享受するのは困難になりつつある。なぜ、そうなったのか。家族社会学の第一人者が社会の変遷を辿り、日本の複雑な現状を明らかにする。
要約
「結婚」とは何ですか?
2023年6月、衝撃的なデータが報道された。
22年に生まれた日本人の数、77万人 ―― 。
これはデータを取り始めた1899年以来、過去最少の数字だ。終戦直後の「第一次ベビーブーム」(1947~49年)の頃、毎年約250万人の赤ん坊が誕生していた。それが2016年には100万人を割り、21年には81万人、翌年ついに77万人となった。ここ5年間の出生数の減少は尋常ではない。
これまで政府は様々な少子化対策を打ち出してきた。だが、いくら保育所を増設しても、男性の育児休業取得率を高めても、出生数は回復しない。なぜなら少子化の背後には、極めて日本的な「結婚観」や「未婚観」が隠れているからだ ―― 。
令和の学生が語る「ザ・昭和」な結婚観
大学で若者と接していると、彼らが驚くほど保守的な“日本的結婚観・家族観”を持っていることに気づく。女子学生なら「専業主婦になりたい」「いずれはマイホームを買いたい」「子どもは2人」…。「バリバリ働いて人生を切り拓いていきたい」という女子学生も増えているが、大半は昭和的な結婚観を維持しているのである。
こうした「結婚観」が生じたのは、第二次世界大戦後から高度経済成長期にかけてである。高度成長期には多くの若者が実家から離れ、都市部で1人暮らしを始めた。そんな若者たちの1人暮らしの侘しさや経済的不安定さに、「結婚」は安心と経済的メリットをもたらした。お互い貧しくとも結婚すれば、規模の効果が生まれ、ゆとりが出る。すなわち、当時の結婚は「生活水準の向上」と直結していたのである。
大切なのは、当時、経済成長の恩恵を手に入れられるのは、社会の上層部だけではなかったということだ。低学歴・低所得者層でもそれなりに昇給・昇進が約束されていた。当時の若者が、1人で侘しい暮らしを続けるよりも、結婚をした方が生活の質が向上すると考えるのは当然のことだった。実際に、この時期は、基本的にほとんどの日本人が結婚する「皆婚」社会だった。
非正規雇用社会への変貌
そんな昭和の「皆婚」社会は、平成時代には結婚困難すなわち「難婚」社会へと姿を変える。
生活を営むにはお金がかかる。住居費、食費、税金。子どもができれば育児費用に教育費。それを賄えるだけの所得を、多くの日本人が獲得できなくなっている…。日本の未婚率の上昇と、出生率の低下は、極論すればこれに尽きる。
日本の経済はここ数十年間低迷してきた。平均年収も30年間ずっと横ばいである。新自由主義経済の導入で、非正規雇用者も増えた。1989年には、非正規雇用者が占める割合は19.1%だったが、2019年には38.3%と約2倍になっている。「新卒で入社したら、後は頑張って働けば定年までは安泰」という大前提が崩れたのである。
自分自身の人生もままならないのに、結婚して妻子を持とうとする男性がどれほどいるだろうか。