2024年7月号掲載
クリティカル・ビジネス・パラダイム 社会運動とビジネスの交わるところ
著者紹介
概要
ビジネスは、便利で快適な社会をつくることを目的としてきた。それを満たした今日、次に目指すべき方向性を提示。社会で見過ごされる不正義を批判し、人々の価値観をアップデートする ――「社会運動・社会批判」としてのビジネスを、事例を交え語る。今、世界では、こうしたビジネスの「パラダイムの転換」が起きている!
要約
クリティカル・ビジネス・パラダイムとは?
今日の社会において、顧客と長期的なエンゲージメントを形成するのに成功している企業の多くは、単に利益を追求するだけでなく、何らかの社会運動・社会批評としての側面を強く持っている。
そのような側面を強く持つビジネスが、「クリティカル・ビジネス」である。
フェアフォンのクリティカル・ビジネス
例えば、2013年にオランダで創業されたスマートフォンのスタートアップ、フェアフォン。スマートフォンは、アップルやサムスンといった強大な企業がしのぎを削る非常に競争の激しい市場である。フェアフォンは、そのような市場で一定の存在感を示すまでに成長している。
フェアフォンが市場に提示しているのは「ライフサイクルを長期化することで資源・環境に関する負荷を低減する」というビジョンである。既存メーカーとの主な違いは、例えば次のような点だ。
・サステナブルな設計
ユーザー自身が部品を容易に交換・アップグレードできるように設計することで、製品のライフサイクルを延ばし、廃棄物の削減に貢献する。
・リペアラビリティ(修理しやすさ)
既存の多くのスマートフォンが接着剤の使用や構造の複雑性等の理由によって修理が事実上不可能なものがほとんどである中、ユーザー自身によって容易に修理できるようにする。
アップルやサムスンにおいて、競争優位の形成は主に、デザインやマーケティングの強化によって追求されている。一方で、フェアフォンの場合、これらのサステナビリティに関する取り組みが、顧客を惹きつける要因を形成しているのだ。
品質や機能ではなく、「哲学」が求められている
フェアフォンが成長できた理由は、製品の品質や機能が優れていたからではなく、既存のビジネスの慣習に慣れきっている業界や市場に対して、彼ら自身の哲学に基づいて批判的=クリティカルな提言を行ったからである。彼らの批判的提案に共感した人々が集まることで、一種の運動として社会変革のうねりを生み出しているのだ。
実際に、フェアフォンの創業者たちは「私たちがやっているのはビジネスというより『修理する権利を取り戻す』という社会運動なのです」とインタビューにおいて答えている。
従来、修理を検討しているユーザーが取れる選択肢は「公式修理サービス」の一択だった。このような状況下では、メーカーが修理費用を高額に設定できたり、新製品の買い替えに誘導できたりする。結果として、廃棄物は増え、ユーザーは不当な出費を強いられることになる。
多くの人は「そういうものだ」と諦め、不本意ながら現状を受け入れていたが、フェアフォンは「このような状況はおかしい、修理する権利を取り戻そう」という社会運動をビジネスというフォーマットを用いて始めたわけだ。