2024年7月号掲載
「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策
著者紹介
概要
「言った、言わない」を繰り返す、自分の発言が都合よく解釈される…。こうした問題に、どう対応すべきか? 繰り返し説明しても、うまくいかない。人は、忘れ、誤解する生き物だから。これを前提に、認知科学の専門家がコミュニケーションの本質と解決策を語る。「伝わる説明」を行い、相手とわかり合う上で、示唆に富む1冊だ。
要約
「話せばわかる」という幻想
伝えたいことがうまく伝わらなかった、という経験は、誰もが一度はしたことがあると思う。
「厳守と伝えた締め切りが守られなかった」「勘違いされて、物事がうまく進まなかった」…。
こうした問題の解決策は、「言い方を工夫しよう」「何度も繰り返し説明しよう」ということではない。「人は、何をどう聞き逃し、都合よく解釈し、誤解し、忘れるのか」を知ることである。
「話せばわかる」とはどういうことか?
「相手の話がわかる」ということを、段階を踏んで表現すると、次のようになる。
①相手の考えていることが
②言語によってあなたに伝えられ
③あなたが理解をすること
ここで問題となるのは、それぞれの頭の中をそっくりそのまま共有できない、ということである。言葉を発する人と、受け取る人とでは、「知識の枠組み」も、「思考の枠組み」も異なるからだ。
例えば「ネコ」という言葉を聞いた時、「自分の家で飼っている子ネコ」をイメージする人もいれば、「ハローキティ」を頭に浮かべる人もいる。昔引っかかれてけがをした経験から「凶暴」なイメージを持つ人もいれば、「愛くるしい」イメージを持つ人もいるだろう。
私たちはそれぞれがまったく異なる「知識の枠組み」「思考の枠組み」を持っているため、たった1つの名詞「ネコ」と聞いた時でさえ、無意識に頭の中に思い浮かべるものはまったく別ものである可能性がとても高いのだ。
意識されずに使われる「スキーマ」
こうした知識や思考の枠組みのことを、認知心理学では「スキーマ」と呼んでいる。このスキーマは、私たちが相手の言葉を理解する際に裏で働いている基本的な「システム」のことである。
人は皆、自分の知識の枠組みであるスキーマを持っている。つまりそれは、「自分なりの理屈を持っている」ということである。人の話はすべて、自分のスキーマというフィルターを通して理解される。そういった意味で、スキーマは「思い込みの塊」でもある。
相手に正しく理解してもらうことは、相手の思い込みの塊と対峙していくことである。これがいかに難しいことかは、想像に難くないだろう。