2024年8月号掲載

「モディ化」するインド ――大国幻想が生み出した権威主義

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著者紹介

概要

近年、国際社会で存在感が高まる、インド。多くの人がこの大国に抱くイメージは、「世界最大の民主主義国」「経済が急成長を続ける国」などだろう。だが、インドの政治経済を研究する著者によれば、それは実態とかけ離れている。政治・経済・外交…。モディ政権下で急速に変質するインドの“真の姿”を、様々な角度から示す。

要約

インドは民主主義国か?

 最近、インドを「民主主義国」と分類することはもはや不可能であるという認識が、研究者の間で幅広く共有されるようになっている。

 例えば、スウェーデンの民主主義の多様性研究所は、2020年3月に公表した年次報告書の中で、インドについて「民主主義のカテゴリーから脱落する寸前にある」と指摘している。

民主主義に不可欠な仕組みを骨抜きに

 これまで当然視されてきた「インド=民主主義国」という前提が揺らぐようになったのは、2014年5月にナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)政権が成立して以降、特に2019年の総選挙を経て2期目に入ってからだ。

 その主な要因として、2つの点を指摘できる。

 1つは、「民主主義の形骸化」である。モディ政権下のインドでは、民主主義にとって不可欠な仕組みが、着々と骨抜きにされていった。

 立法府では審議の空洞化と議会手続きの無視が常態になり、司法府は政府の決定を追認するような判断を繰り返し示している。捜査機関は野党政治家や反対勢力を「合法的」に弾圧する手段として政府に利用されている。そして、テレビ・新聞・雑誌などの主要メディアは、アメとムチによって巧みにコントロールされている。

 では、その結果、インドの民主主義に何が起きているのか。例えば、民主主義の根幹というべき選挙については、選挙管理委員会は与党寄りの判断を下し、主要メディアは政府・与党に有利な報道を行い、政治献金の大半は与党の手に渡っている。つまり、公平な条件のもとで選挙が実施されていないのだ。

インドを覆うヒンドゥー至上主義

 インドが民主主義国とは認識されなくなったもう1つの理由は、「ヒンドゥー至上主義」が政治の中心を占めるようになったことである。ヒンドゥー至上主義とは、インドを「ヒンドゥー教徒のヒンドゥー教徒によるヒンドゥー教徒のための国」にしようという、きわめて排他的で抑圧的な政治思想である。

 あからさまなヘイトや直接的な暴力などの手段に訴えながら、イスラーム教徒を社会生活から排除しようとする組織的な動きも顕著になっている。例えば、2022年にデリーで開かれた集会で、与党BJPの国会議員は次のように述べ、イスラーム教徒を経済的に締め出すよう呼びかけた。

 「私たちは奴らをボイコットする! 奴らの店では何も買わない! 奴らに仕事を与えない!」

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