2024年10月号掲載
買い物の科学 消費者行動と広告をめぐる心理学
著者紹介
概要
人は日々、様々な買い物をする。その消費行動の裏で働く“心理”を、社会心理学の観点から解説した書。値下げは顧客獲得に効果的か、自社ブランドのファンを増やす有効な策とは…。多数の研究と事例を基に、消費行動を巡る疑問の数々を解き明かす。賢く買い物したい人、販促に関わる人、双方に役立つエッセンスが満載だ。
要約
価格の心理学
我々は日々、様々な消費行動を行っている。従来、こうした行動はマーケティングや消費者行動論などの専門家によって研究されてきた。だが、最近は社会心理学者も消費行動の重要性に気づき、この領域の研究を行い、成果を出している ―― 。
バーゲンとお試し価格の効果
値下げは、簡単に客を呼び寄せる方法だ。売上がノルマに達しなさそうな時、マネージャーはすぐに値下げプロモーションを行おうとする。
だが、値下げは本当に良い方法だろうか。
あなたがハンバーガー店のオーナーで、自信作の新しいハンバーガーを作り出したとしよう。この商品は800円で販売しないと利益は出ない。さて、あなたはどちらの販売戦略をとるだろうか。
- ①初めから800円で販売する。
- ②多くの人においしさを知ってもらうために、初めの3週間は半額の400円で販売する。
ここで②の戦略をとった場合、3週間は客足が絶えないだろう。だが3週間後、客は一気にいなくなってしまう。なぜこうなるのか?
「内的参照価格の罠」という現象がそこに潜んでいるからだ。内的参照価格とは、その商品はいくらかという消費者の認知している価格のこと。このハンバーガーは当初400円で販売されたので、客の頭の中では「新発売のハンバーガー=400円」という内的参照価格が設定されている。
このため、客にとっては「昨日まで400円で食べられたものが、今日から800円」ということになり、買いたいという気持ちは低下してしまう。
値下げが引き起こす様々な問題
値下げによる販売促進には、他にも様々な問題がある。例えば「客層の入れ替わり現象」だ。
マクドナルドは、ハンバーガーを100円に値下げするなどの低価格キャンペーンを繰り返し行ってきた。この低価格戦略でマクドナルドには多くの客が来るようにはなった。
では、「この客はどこから来たのか」。それは「今まではマックは高いからあまり行けなかった人々」だ。例えば中学生・高校生などである。これらの客は必ずしも「良い客」とはいえない。大人数で長い時間客席を占拠したりするからだ。
一方で「去っていった客」もいる。その1つは、ビジネスマン層である。若干の追加支出があったとしても、短い待ち時間、快適な客席環境で過ごしたいと思うビジネスマンは少なくない。