2024年11月号掲載
ハマスの実像
- 著者
- 出版社
- 発行日2024年8月14日
- 定価1,155円
- ページ数284ページ
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著者紹介
概要
日本ではほとんど知られていないイスラム組織「ハマス」の正体に、中東ジャーナリストが迫った。普段は孤児などを支援する社会慈善組織として活動。ガザの若者に「生きる意味」を与える…。現地取材をもとに示される実像は、残酷なテロ組織のイメージとは異なるものだ。パレスチナ問題の現実を知る上で一助となる書である。
要約
人々を支える社会慈善運動
2023年10月7日、パレスチナ自治区ガザを拠点とするイスラム組織「ハマス」が、イスラエルで開かれていた音楽イベントを襲撃した。260人が殺害され、かなりの人数が連行されたという。
この越境攻撃によって、ハマスの名前は広く知られるようになった。日本でもガザ情報は連日報じられている。だが掘り下げられた内容はなく、ハマスの実態はほとんど知られていない ―― 。
ハマス結成の経緯と背景
ハマスの創設は1987年12月9日である。
その前日の8日、イスラエル軍のトラックがパレスチナ人労働者らをはね、4人が死亡した。それをきっかけに大規模なデモが勃発し、ガザ全域に広がった(第1次インティファーダ[民衆蜂起])。
9日、パレスチナのイスラム組織「ムスリム同胞団」ガザ支部の幹部メンバーが会合を開き、イスラエルの占領と戦う「イスラム抵抗運動(ハラカ・ムカーワマ・イスラミーラ)」という組織を立ち上げることで合意した。「ハマス」とは、この「イスラム抵抗運動」の単語の頭文字の3文字であり、アラビア語で「熱情」を意味する。
ムスリム同胞団は、アラブ世界では最大のイスラム政治勢力である。アルカイダや「イスラム国」など軍事部門中心の組織と異なるのは、社会での草の根的なイスラム社会活動と選挙による政治参加という非暴力の手法をとる点だ。同胞団は、ハマスの創設まで専らイスラム的な社会活動を行い、政治・武闘活動には参加していなかった。
同胞団にとってハマスの創設は、社会活動から政治活動へ、さらに武装闘争への参加につながるものだった。
ハマスの普段の顔は社会慈善組織
ハマスには、次の3つの顔がある。
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- ①イスラム的な社会事業を行う系列の社会組織
- ②ハマスの立場を外に向けて説明する政治部門
- ③イスラエルに対する武装闘争を行う軍事部門
ハマスと言えば、日本人の多くが「テロ」という言葉を思い浮かべる。だが、ガザで日常的に目にするハマスは、イスラム的な社会慈善組織だ。
ハマス設立の中心人物アフマド・ヤシーンは、1967年にイスラム協会を設立し、教育プログラムや社会事業、慈善事業を始めた。また、イスラム・センターを設立し、さらに孤児を無料で受け入れる小中高一貫校を運営するサラーハ協会を発足させるなど、社会事業を拡充させてきた。
支援金を軍事部門に回している?
ハマス系の社会組織は「慈善」を掲げながら、外国から入ってくる支援を軍事部門に回している、という風説がある。だが、そうではない。社会組織と政治・軍事部門は別だ。ガザの孤児支援や貧困家庭の支援として湾岸諸国の社会慈善組織から送金されてくるお金が政治部門や軍事部門に流れることは、イスラムの文脈ではあり得ない。