2024年11月号掲載
エシックス経営 パーパスを経営現場に実装する
著者紹介
概要
近年、立派なパーパス(志)を掲げる企業は多いが、不祥事も絶えない。それは、「倫理(エシックス)」を日々の行動原理にまで落とし込めていないからだと、「パーパス経営」を提唱した著者は言う。倫理は、理想と現実をつなぎ、社会と経済の発展のための基軸となるもの。その構造を解説し、組織に取り込むためのヒントを提示する。
要約
倫理が問われる理由
パーパス(志)が、時代のキーワードとなっている。先が見えない今こそ、自分たちの「ありたい姿」を描こうという思いが高まっているからだろう。多くの企業が、パーパスを高く掲げている。
後を絶たぬ不祥事
だが、パーパス経営がブームとなる一方で、不祥事が続出している。
例えば、ビッグモーター事件。同社の悪徳行為だけでなく、そうした企業と取引関係にある大手損害保険会社の経営判断が、社会的に糾弾された。その矢面に立たされたのが、損保ジャパンだ。
同社の親会社であるSOMPOホールディングスは、パーパス経営の先進企業と目されていた。その中で、今回の事件が勃発したのだ。なぜか。
それは、以下の3つによるものと考えられる。
- ①経営判断において、当面の利益を優先したこと。
- ②現場の正しい実態が、経営層に的確に共有されていなかった可能性。
- ③代理店を顧客として捉え、交通、保険などの社会インフラの利用者、ひいては社会そのものを、顧客として捉えきれていなかったこと。
1つ目が直接の引き金となったことは明らかだ。2つ目の情報共有の問題は、1つ目の誤った経営判断を誘発した遠因となる可能性がある。
3つ目の問題は、視座・視野の狭さである。目の前の顧客の利害を優先し、真の顧客が誰かを見失ったことこそ、第1、第2の問題を生んだ真因なのではないか。企業の社会的役割の本質を見据えた判断が、現場レベルでも、経営レベルでも徹底されていなければならなかったはずだ。
筆者は、この第3の問題点を、「経営倫理」の中心課題と捉えている。そしてそれは、パーパスを正しく実践するうえで、最も本質的な課題だ。
志と実践の結節点
良質な企業は、果敢にパーパスの実践に取り組もうとする。しかし現実は制約だらけだ。何を優先するかという価値判断を迫られる。
企業そのものではなく、企業の主体となる人間をモデルとして、考えてみるとわかりやすい。便宜上、人間を心と体、頭の3つに分節してみよう。
まず心の中で、「ありたい想い」を描く。これが「パーパス」だ。それを実践するためには、体を動かす必要がある。これが「プラクティス(実践)」である。しかし、体は現実の中で動かさなければならず、現実は制約だらけだ。そのままでは、「心=パーパス」と「体=プラクティス」を連結させることは容易ではない。