2024年12月号掲載
コモングッド 暴走する資本主義社会で倫理を語る
Original Title :THE COMMON GOOD (2018年刊)
著者紹介
概要
互いに信頼し、国や社会のために行動をする。そんな「コモングッド」(共益、公共善、良識)が、アメリカ社会から失われつつある。顧客をだます経営者、勝つためには手段を選ばぬ政治家、権力者の不正を見て見ぬふりする関係者…。オバマ大統領の元アドバイザーである経済学者がコモングッド衰退の原因を述べ、回復を促す。
要約
「コモングッド」に何が起こったか
「コモングッド」(共益、公共善、良識)は、かつてアメリカで広く受け入れられていた。だが、もはや流行りの考え方ではなくなってしまった。
企業経営者は顧客をだましたり、投資家を詐欺にかけたりする。映画関係者は、自分たちが頼みとする映画界の大物が若い女性にセクハラをしようが見て見ぬふりをする。政治家は裕福な支援者や企業から寄付(わいろ)を受け取って、彼らの望むような法を成立させる。アメリカ大統領は、何度も嘘を繰り返すうえ、その地位を利用して私的な利益を上げ、人種的対立も煽っている。
「コモングッド」とは何か
「コモングッド」とは、同じ社会の一員として連帯する市民が、互いにどんな義務を負っているかを示す共有価値である。それは、私たちが自発的にそれに従おうとするような規範であり、また、私たちが成就させたいと願う理想でもある。
善悪の判断に関わる共通概念の数々に、私たち自らが従順でなければ、日常生活はひどいものになろう。まるでジャングルで暮らすようなもので、最も力のある者、頭の良い者、隙を見せない者だけが生き残る可能性を持つ。そんなものは社会とは言えない。文明とさえ言えない。
搾取
コモングッドとは何世代にもわたって積み上げられた「信頼」の集合体である。信頼の集合体には大きな価値があり、人々の生活をよりわかりやすく、より安全なものにする力がある。
しかし、まさに大きな価値があるがゆえに、自分本位の利益のために、コモングッドを搾取しようとする輩が出てきてしまう。
小さな町を例にとろう。その町の住民にとっては、物を盗む人などいないというのが暗黙の了解事項なので、誰も玄関に鍵をかけたり窓を閉めたりしない。このような状況では、強盗しようと決めた泥棒は容易にことを運べてしまう。何の苦労もなしに他人の家に侵入できるからだ。
しかし、この時の先行者の優位性は、人々がひとたび災難から学習し、玄関や窓を閉め始めたとたんに効力がなくなる。
現代社会には多くの暗黙のルールが存在するが、このルールを社会的制約と考えず、利益を得る機会とみなして自分本位に利用する人々がいる。
ひとたび搾取が起こってしまえば、ルールを変えざるを得ない。それからは似たような搾取が起きないよう、誰もが対策を取る羽目になり、それは往々にして不便で、時間の無駄で、別の意味で高くつくことが多い。
信頼
「信頼」がまとめてどこかへ消えてしまうこともある。正直な中古車販売店主であっても、いい加減な販売店主とは違うことを明確に証明できないとなれば、自ら販売する中古車の品質を保証する意味を感じなくなるだろう。すると最終的には誰も中古車販売業者を信頼しなくなってしまう。