2025年3月号掲載
2030-2040年 日本の土地と住宅
- 著者
- 出版社
- 発行日2024年12月10日
- 定価1,100円
- ページ数281ページ
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著者紹介
概要
人口が減少している日本で、なぜ住宅価格が高騰しているのか? 高級タワーマンションが各地に次々と建つ理由は? 土地と住宅を巡るこうした疑問に、都市工学者がデータを示しつつ答えた。現在の都市計画、市街地再開発は様々な問題をはらんでおり、将来世代が心豊かな生活を送るためにも都市づくりの転換が必要、と訴える。
要約
この10年の地価高騰を読み解く
近年、毎年のように地価が上昇しているというニュースを聞くようになった。では、昔に比べてどの程度、どのエリアの地価が上昇しているのか。
この10年で約6割の市街化区域で地価上昇
そこで、2023年と10年前の2013年の都道府県地価調査(以下、地価)を比較してみると、2023年の地価は全調査地点の35%(1万8168地点のうち6447地点)で上昇していた。
また、市街化区域(すでに市街地となっている区域、および市街化を図るべき区域)だけで見ると、10年前から地価が上昇した地点は約6割(9667地点のうち5891地点)にのぼっていた。つまり、この10年で総人口の71%が住んでいる市街化区域の多くで地価が上昇したことがわかる。
どのようなところで地価が上昇したのか?
中でも、東京23区内や札幌市、仙台市、名古屋市、京都市、大阪市、福岡市といったエリアは、この10年で地価が1.5倍以上になっていた。これらの地域は、国から「都市再生緊急整備地域」に指定されたエリアと重なっている。
都市再生緊急整備地域とは、都市開発事業等を通じて緊急かつ重点的に市街地の整備を推進すべき地域のこと。いわば、国が特定の地域を特区的に指定し、民間活力を活用して都市を再生させようという制度だ。
都市再生緊急整備地域に指定されると、民間開発事業者は、財政支援や税制上の優遇措置などのメリットが得られる。この制度が創設された2002年以降、上記のエリアを中心に大規模な再開発が旺盛に行われた。そして、それがさらにその周辺地域の開発を誘発し、地域全体で地価が上昇していったと考えられる。
固定資産税収入が増加した自治体が抱える問題
地価の上昇には、様々なメリットがある。まず、不動産の資産価値が増加する。また、固定資産税収入のある自治体は収入が増える。実際、全国の2022年度の固定資産税収入は、10年前の1.11倍(8155億円)の増収となった。
それならば、「どんどん新たな再開発を喚起して地価を上昇させればよいのでは?」とも考えられる。しかし、きちんと計画をしないまま開発を許容していくと、税収増のメリットを上回るレベルで、後追い的に生活インフラの整備などへの税投入を余儀なくされるという事態も引き起こす。
例えば、再開発によるタワーマンション建設が続いたさいたま市では、子育て層が流入したことで市税収入が増加し、2024年度の歳入額は6740億円になると見込まれている。だが、公共施設整備にかかる建設費の増加が影響し、歳出は7062億円と、322億円もの財源不足となる見通しだ。
このように急激な人口増加は、市税収入の増加が見込まれたとしても、財政状況を上向かせるとは、一概に言えなくなっている。