1997年10月号掲載
創発型ミドルの時代 複雑系のマネジメント10の発想転換
著者紹介
概要
今後、企業は「複雑系」としての性質を強めていくことを予見し、そうした時代の新しいマネジメントを論じた『複雑系の経営』。その著者・田坂広志氏が、中間管理職に向けて発想の転換を問う1冊。企業が複雑系としての性質を強めていくと、「創発」や「自己組織化」というプロセスが重要になる。このプロセスを重視したマネジメント・スタイルへの転換を説く。
要約
「中間管理職」は不要になるか?
今、中間管理職にとって気になる2つの議論がある。「フラット組織論」と「中間管理職不要論」である。
企業にイントラネットや電子メールなどの情報システムが導入され、全社での情報共有が進む。部門間の壁を超えて社員が自由に結びつき、階層を超えてトップと末端の社員が直接的に結びつく。この結果、フラットな組織構造が生まれ、中間管理職が不要になる。そうした議論だ。
だが、フラットな組織と中間管理職不要のマネジメントが究極の組織形態なのかといえば、答えは「否」であろう。適切なレベルの組織階層と適切な数の中間管理職は絶対に必要である。
ではなぜ、フラット組織論と中間管理職不要論が、今これほど注目されるのか?
その理由は、わが国の企業においては組織階層と中間管理職が多すぎるからである。
「自己組織化」と「創発」
では、どのようにすれば理想的な組織形態を見つけることができるのか?
「自己組織的」な方法を用いて行うべきである。「創発的」な方法と言ってもよい。
自然に組織が生まれてくる「自己組織化」のプロセスを利用して、組織づくりを行うのである。「複雑系」の用語を使うならば、「創発」のプロセスを利用して、組織づくりを行うのである。
では、創発とは何か?
複雑系の研究によれば、企業や市場や社会には、「個の自発性が、全体の秩序を生み出す」という特性がある。
その代表的な例が、アダム・スミスの「神の見えざる手」である。すなわち、自由競争市場においては、個々の消費者は「自らのニーズを最も低いコストで満たす」という単純な原理による自発性に基づいて行動する。企業は「収益を最大化する」という単純な原理による自発性に基づいて行動する。これが結果として、市場全体におけるブームやヒットの現象を生み出し、市場独占や企業系列などの構造を生み出していくのである。