2002年5月号掲載
社員の幸せを追求したら社長も成果主義も不要になった!
著者紹介
概要
リストラに遭った人たちが創業し、独自の経営で躍進を遂げている広島の安売りメガネチェーン「21(トゥーワン)」。利益は社員で山分け、ノルマなし、社長は4年交代制…など、同社は数々の驚くべき運営方針を実践している。その背景にあるのは「100%の社員が幸せになれる経営」という思想。昨今の成果主義の対極にあるその経営手法を紹介する。
要約
社員の幸福を優先する会社
広島市に本部を置き、西日本を中心に展開する安売りメガネチェーン「21(トゥーワン)」。資本金5000万円、社員数133人、125店舗を有する中堅企業である。
「21は社員の幸福を大切にします。社員は皆様の信頼を大切にします」という社是のもと、同社は、10%の人が幸せになるアメリカ型経営ではなく、「100%の社員が幸せになれる経営モデル」を作り上げ、それを実践している。すなわち ――
- ・一切の利益を社員で山分けし、顧客にも還元する(利益を残さない会社)
- ・株主は社員で、社員による共同経営(仲間主義で雇用者・被雇用者の関係が希薄な会社)
- ・人事破壊で合理化(間接部門がなく、管理職もいない会社)
- ・会社の業績、財務状況、全社員の給与・賞与明細などの情報開示(透明経営の会社)
- ・社員間の競争排除(ノルマ・目標を設定せず、成果・能力主義でない会社)
このように、従来の会社経営の常識を覆す経営を行う同社は、デフレ不況に日本企業があえいだ1990年代、8億円(1990年)のグループ売上高を1999年には8倍の65億円にまで伸ばした。2000年は75億円と、前年比約15%の増である。
ところが、売上が右肩上がりに伸びているにもかかわらず、同社の経常収支はほとんどマイナス(それもゼロに近い)である。なぜか?
「利益を残さないのは、会社の利益処分に不透明な部分を残さないための方策です。内部留保が膨らめば、不動産投資や子会社での蓄財などの誘惑に駆られないとも限りません。それで、経営陣が自由な金を持てないようにしたのです」と、創業者の1人、平本清氏は語る。
21は、この平本氏を含む、リストラの憂き目にあった中年4人によって、「メガネの21」として86年2月に創業された(99年に現社名に改称)。
4人はある大手メガネチェーンの幹部社員だったが、社員の処遇より内部留保を優先し、会社を私物化する社長と対立した結果、解雇・退職に追い込まれた。
会社は本来、利益を上げて税金を納めるなどの社会還元をし、頑張った社員を幸せにする公器だ。しかし、会社の利益が株主、経営者など一部の者の利益に傾き始めるとどうなるか。
メガネ店だと、社員に売上ノルマが課せられ、必要のない高額のレンズを客に売ったりするなど、結果のためには手段を選ばずという弊害が生じる。また、欲の張り合い、同僚の足を引っ張るといった“悪い競争”を引き起こしかねない。
前の会社を反面教師とした平本氏らは、「利益が出たら、まず賞与という形で社員で山分けし、さらには、商品の値下げの原資に回した方が会社のためになる」と考え、「会社に利益を残さない」のを経営方針とした。社員の“山分け”は年3回、夏冬と決算期の賞与として渡される。2001年冬の賞与は、最高で400万円強も出た。
その一方で、値下げの原資に利益を充てる。そうすることでさらに価格破壊が進み、顧客が増える。その循環がうまくいって、同社は成長を遂げたのである。